エシカルとは、そのまま日本語にすると「倫理的な」です。
そして最近は多くの場合、エシカル消費という言葉で使われます。
つまり、倫理や道徳という観点から買う商品を選ぶことを意味します。
ただ、この説明を聞いてもあんまりピンときこない人は多いと思います。
エシカル消費は、言葉そのものの意味を知るより
- なぜエシカル消費が広まったのか
- なぜエシカル消費が必要なのか
という背景を理解することがとても重要です。
それを知ることで、エシカル消費という言葉の真意を理解することが出来ます。
というわけで、本記事ではエシカル消費が広まった背景やその必要性について解説させていただきます。
エシカル消費とは
エシカル消費とは、端的に言えば
「商品のストーリーを知る」
ということが出来ます。
商品のストーリーとはつまり
- この商品はどこからやってきたのか
- この商品はどのような工程を経て作られたのか
- この商品を買うことで社会や地球どんな影響があるのか
といった、商品が誕生してから消費者が購入に至るまでの背景のことです。
多くの消費者は、商品を買うときに「価格」と「スペック」しか見ません。
その購買プロセスの中に「ストーリー」を加えることが、まさにエシカル消費です。
でも、なぜ商品のストーリーをイメージすることがそんなに重要なんでしょう?
エシカル消費が注目された背景
エシカル消費を知る上で欠かせないのが「ラナ・プラザの悲劇」という事件です。
2013年4月24日にバングラディッシュにある「ラナ・プラザ」という商業ビルが崩壊し、1100人以上の死者が出た事故です。
この事件は世界中から注目を集めることになりました。
なぜそんなに注目を集めたのかというと、ファッション業界の闇、ひいては、世界の産業の闇が凝縮されたような事故だったからです。
近年、ファッション業界ではファストファッションのように安価で高品質な洋服が消費者から大きな支持を得ています。
ラナ・プラザでも、そんな近年のファッション業界の流れを受け、洋服の大量生産をしていたわけです。
そして、生産量をさらに追求するあまり、元々5階建てだったビルを無理やり8階建てにしてしまいました。
事故の前日、そのビルで働く従業員たちは、建物に入ったひび割れを見つけ、ビルが危険な状態にあることを雇い主に報告をしました。
しかし、雇い主は従業員たちに、翌日まで帰宅しないよう命じたのです。
ラナ・プラザでの事故は、未然に防ぐことが出来たのに防げなかった事故なのです。
これはまさに、従業員たちはファッション業界の闇に殺されたと言っても過言ではないでしょう。
ラナ・プラザの悲劇という事故の闇を理解するためには「途上国と先進国」という構図がとても重要です。
先進国で売られているファストファッションは、とても安いのに、品質も高い商品を売っています。
なぜそんな商品を作れるのかというと、多大なる「コスト削減」をしているからです。
商品コストの中には、素材の原価のほかに、商品を作っている人たちの人件費も含まれています。
安い商品を作るため、コスト削減をしようとする場合、往々にして生産者や労働者に支払われる報酬が大幅に削られることになります。
しかし、どれだけ低い報酬・給料だったとしても、先進国と異なり、途上国の人たちは「じゃあ違う会社に転職します」ということは出来ません。
途上国の人たちが出来る仕事は先進国みたいに多くありませんから、どれだけ不当な労働条件であっても働くしかないのです。
ですから、仮にビルが危険な状態にあることが分かっていても、クビになりたくないので、労働者は雇い主の命令に逆らうことが出来ません。
このような、世界の産業の闇が凝縮された事故が起きたことで、世界中からファストファッションに対する批判が集まり、エシカルファッションという新ジャンルの誕生に繋がりました。
ひいては、あらゆる業界においてエシカル消費という考え方が広まるきっかけにもなったのです。
【関連記事】エシカルファッションとは?メリットや国内外のブランドを紹介
エシカル消費が必要とされている理由
エシカルという消費スタイルが今求められている理由として
- SDGs
- パリ協定
という2種類の国際的な枠組みを知っておくことが重要です。
SDGs
SDGsというのは、2015年に国連で採択されたグローバル目標です。
簡単に言えば「世界が抱える課題を全世界で協力して解決していこう」という目標です。
貧困問題、ジェンダーギャップ、環境問題など、全部で17個の目標から構成されています。
【関連記事】
・SDGs(エスディージーズ)とは?17の持続可能な開発目標について解説
・ジェンダーギャップ指数とは?日本の順位と意味を解説
SDGsが抱える目標の中に「貧困をなくそう」や「飢餓をなくそう」という目標が含まれています。
そして、貧困や飢餓を生み出す原因の一つになっているのが、ラナ・プラザのような途上国と先進国における不均衡なのです。
ラナ・プラザの事故は、商品を安く売りたい&買いたいという先進国のニーズと、それに応えようとする途上国の不当労働によって生み出された惨劇です。
安さを追求しようとすると、必ず生産の”効率化”や”コスト削減”という話になってくるんです。
効率化を追求した結果、5階建てのビルを8階建てかえるという事態を招きました。
コスト削減を追求した結果、従業員たちは不当な労働条件で働かざるを得ないという事態を招きました。
そして、これは何もファッション業界だけの問題ではありません。
例えばチョコレートのカカオやコーヒー豆も同様に、生産者は低い報酬しかもらえず、効率化のために大量の農薬を使用して生産者の健康や環境に悪影響を及ぼしています。
あらゆる業界において、このような途上国と先進国の間に不均衡が存在するのです。
途上国の生産者が正当な報酬を受け取り、かつ環境にも配慮した商品を作るためには、適正な価格で商品を売る必要があるのです。
もちろん消費者にとっては価格は安い方がいいでしょうが、安い商品は大きな代償の上に成り立っているのだということを理解する必要があるでしょう。
SDGsは、国同士が頑張る課題ではなく、あらゆる組織や個人が全員で頑張る課題とされています。
そして、SDGsが掲げる課題を解決する手段の一つとして、個人でも出来るエシカル消費が注目されているわけです。
パリ協定
ここまではずっとエシカル消費と「人権」という話を中心にしてきました。
しかし、エシカル消費は「環境」にも大きな関係があります。
どのように関係しているのか、その手掛かりになるのがパリ協定です。
【関連記事】パリ協定とは?目標や問題点について分かりやすく解説
パリ協定とは、世界で協力して気候変動の対策を立てよう、という国際的な枠組みです。
世界が抱える課題の中でも、地球温暖化は特に緊急性の高い課題です。
地球温暖化を防ごうという話は、結構昔から言われていることです。
【関連記事】地球温暖化とは?原因・対策・影響について解説します!
しかし、全くもって解決に向かっていないどころか、最近は加速度的に悪化をしています。
ですから、全世界で「いつまでにどれくらいCO2を抑えます」という目標を掲げているのがパリ協定なんです。
と言っても、エシカル消費と地球温暖化が何の関係があるのよ、という疑問を持たれる方は多いでしょう。
いえいえ、これが大ありなんです。
例えば、ファッション業界は不当労働だけでなく、環境にも悪影響を及ぼしています。
あまりイメージがないかもしれませんが、ファッション業界というのは、とんでもないくらいCO2を排出している業界で、その排出量は年々増加しています。
2030年には20億8000万トンに達すると言われており、これは2億3000万台の自動車が排出するCO2量とほぼ同じと言われています。
また、環境に悪影響を与えているのはファッション業界だけではありません。
皆さんが普段食べている「お肉」も、かなりのCO2を排出しています。
全産業が排出しているCO2のうち、およそ14%は畜産業が占めていると言われています。
中でも牛のCO2排出量がとんでもなく大きく、畜産業の中でも70%近くは牛肉の生産が占めています。
飼育や輸送の際に発生するCO2はもちろん、牛のゲップには大量のメタンが含まれていて、それがとっても環境に悪いんです。
途上国の貧困や飢餓というのは、もしかしたら心優しい人しか関心が持てないテーマかもしれません。
しかし、地球温暖化となると、もはや地球に住んでいる全人類に関係する問題です。
ですから、環境に優しい商品を選ぶことが、エシカル消費に繋がってくるわけです。
私たちに出来ること
地球には大きな課題がある。
ということは少なからず認識して頂けたと思います。
サステナブルで大事なことは、まず知ることです。
そして、次に大切なのは実行することです。
ぜひ、エシカル消費を是非実践していきましょう。
環境に良い商品を買う
エシカル消費の基本は「買う」ことです。
自分の意思を表明する手段として、例えば商品の不買運動とかボイコットみたいな手段もあったりします。
でもこういうネガティブな行動は、実際のところ企業に大きな影響を与えることは難しいです。
しかし、環境に良い商品を沢山買ってもらえたら、企業は「この商品は売れる!」と判断して、もっと作るようになります。
さらに、環境に良い商品を販売している企業の競合他社は、「うちも環境に良い商品を作らないとヤバイ」という判断になり、業界全体にエシカルが広がることに繋がります。
ネガティブよりもポジティブな方が好きなのは人間も同じですよね。
コンビニのトイレの張り紙の文言には「トイレを汚すな!」とは書かれていません。
「いつもトイレを綺麗に使ってくれてありがとうございます。」と書いてあるはずです。
人間心理的には後者のようにポジティブな言葉を用いられている方が綺麗に使いたくなるものなんです。
ネガティブで人に影響を与えるのは難しい、ということは念頭に置いておきましょう。
ですから、環境に悪い企業の商品をボイコットするのではなく、環境に良い商品を作っている企業の商品を購入して積極的に支持を表明するのです。
このように、消費で意思表明することを、買う(buy)という英語をもじってバイコットと呼びます。
買い物はまさに投票です。
例えば、アディダスなんかは環境に配慮した商品を積極的に作っています。
上の写真で私が履いているトラックパンツとスニーカーはまさに環境に配慮した商品です。
どちらも、海岸に流れ着いた廃棄物をリサイクしたPRIMEBLUEというアディダス独自の新素材で作られているんです。
近年、海洋プラスチックゴミはとても深刻な問題で、SDGsでも「海の豊かさを守ろう」として掲げられている課題です。
このままだと、2050年には海洋プラスチックゴミの量が海を泳ぐ魚の量を超えると予想されています。
スポーツブランドはいくつもありますが、その中でも私はサステナブルな商品作りに積極的なアディダスの支持を表明しています。
また、上の海岸の写真に写っている私が背負っているポーチは、動物の革・毛皮を一切使わないエシカルファッションブランドのステラマッカートニーです。
ステラマッカートニーはブランド設立当初から、サステナブルを最大のテーマとして掲げているラグジュアリーブランド。
レザーの代わりに再生ポリエステルを使って環境への負担を軽減させたり、カシミアの使用に関連する環境影響を92%削減したりしています。
数あるハイブランドの中でも、私はステラマッカートニーの支持を表明しています。
とまぁこんな感じで、自分がどの会社の商品のファンになるのかを決めることが、エシカル消費に繋がります。
野球チームやサッカーチームを応援するように、普段買う商品に関してもどの企業のファンになるかを決めましょう!
【関連記事】海洋プラスチック問題とは?原因と対策や世界の現状を紹介
サステナブルラベルを探す
「じゃあ私もエシカル消費を実践してみよう!」
と思っていざお店に行って商品を手にとったとき、ある一つの問題にぶつかります。
どの商品がエシカルな商品なのかが分からない、という問題です。
それこそアディダスみたいに超有名な企業であれば分かりやすいですが、そうでないと素人目にはどの商品がエシカルか、というのは判別しづらいです。
でも、素人であっても簡単にエシカルな商品を見分ける方法があります。
それがサステナブルラベルです。
例えば、サステナブルラベルの一つとしてフェアトレード認証が挙げられます。
【関連記事】フェアトレードとは?メリットや問題点についても解説
フェアトレード認証のラベルがある商品は、第三者機関が審査をして「この商品は生産者に正当な利益を支払っている」というお墨付きが与えられているのです。
最近はどの業界でも「地球に優しい」とかをうたっていたりしますが、言うだけなら誰でも言うことが出来ます。
でも、第三者機関が客観的に審査をしているなら、消費者にとっても信頼できますよね。
チョコレートやコーヒー豆なんかは、フェアトレード認証ラベルのある商品が増えています。
成城石井、カルディ、イオンなんかはフェアトレードの商品を多数そろえているのでオススメです。
また、フェアトレードの他にも、海産物には魚の乱獲を防ぐためのMSC認証があったり、洋服には環境に優しいオーガニックコットンを使っているGOTS認証などがあったりします。
お店に行ったときは是非ラベルのある商品を探してみてください。
【関連記事】
・サステナブルラベル8選!ラベルの意味や購入するメリットを解説
・オーガニックコットンとは?メリット・デメリットを解説します
日本におけるエシカル普及の課題
エシカルな商品は値段が高いです。
それは
- 農薬を使用していない分、生産効率が落ちる
- 生産者を労働搾取することなく、適正な報酬を支払っている
- 安価に大量生産できる石油由来のプラスチックを使わず、バイオマスプラスチックなど環境に配慮した素材を使っている
- 認証ラベルを取得・表示するための費用が上乗せされている
といった理由があります。
ただ本来「生産者に適正な報酬を支払う」のは至極当然の話です。
本来ならエシカルな商品が適正価格。
むしろ、コンビニで売られている商品、ファストファッション、100円均一など街中に溢れている商品が安すぎると言えます。
安い商品は、地球の豊かさ、生産者の幸福、生命の尊厳が犠牲になったうえで、そこに存在しています。
しかし、こうした現実を知ってもなお、エシカル消費ができる人は多くはありません。
なぜなら、大抵の人にとっては環境よりも、途上国の生産者よりも、動物よりも、目の前の生活が大切だからです。
賃金が低いのなら、安価な商品を買うしかありません。
これは企業が悪いとか、消費者が悪いというより「日本経済」の問題です。
安い商品を求める人、安い商品を売る会社、需要と供給が完全にマッチしてしまっているのです。
100円均一とかファストファッションといったような、いわゆるプチプラは流行りでもなんでもありません。
安いものしか買えなくなった日本の現状を映し出しているに過ぎないのです。
100円ショップで商品を100円で買えるのは日本くらいです。
例えばダイソーが展開するアメリカ、中国、ブラジル、オーストラリアなどの販売価格を日本円に換算すると、いずれも200円ショップ水準です。
あるいはイギリスの経済紙「エコノミスト」が考案したビッグマック指数が参考になります。
ビッグマックは、世界各国での材料・調理方法に違いが少なく、農畜産物、人件費、物流・サービスと、コストの種類も多く含まれているため、物価水準や為替相場を比較する基準として親しまれています。
2000年には日本の順位は5位でしたが、2023年に発表された日本の順位は41位です。
韓国、タイ、ベトナムより下の順位です。
日本人はエシカルな商品を買えるようになるためには、まず賃金を上げることから始める必要があります。
私たちにできることは、問題意識を持つこと、そして選挙に行くことです。
【参照】
・Our Big Mac index shows how burger prices are changing
エシカル消費をもっと知りたいなら
エシカル消費について、おおよそ必要な情報は本記事で網羅してあります。
しかし、もっとエシカル消費について詳しく知りたい人にオススメの書籍があります。
それが、「はじめてのエシカル」です。
著者である末吉里花さんは、一般社団法人エシカル協会の代表を務めている方です。
末吉里花さんは世界ふしぎ発見のミステリーハンターを務めたことがあり、世界を旅する中で地球が抱える様々な問題に気付いたそうです。
この方こそ、エシカル消費という考え方を日本に広めたといっても過言ではありません。
エシカル消費のバイブル本とも言える本なので、もっとエシカル消費を知りたいならこの本1冊買っておけばOKです。
最後に
以上がエシカル消費に関する解説です。
この記事を読み終わったら、是非近くのお店に行ってみましょう。
そして、商品を手に取って、その商品がエシカルな商品かどうかを考えてみましょう。
その商品はどこから来たのか、その商品を買うことでどんな影響があるのか、そのストーリーをイメージしましょう。
エシカルだと思えるなら買いましょう。
エシカルだと思えないなら商品を棚に戻しましょう。
買う前に考える。
それがエシカル消費の第一歩です。
そしてその一歩は、やがて人類の大いなる一歩に繋がるでしょう。
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