リジェネラティブ農業とは、土壌の健康を育みながら自然環境を回復するための農法です。
土壌には非常に多くの炭素が貯留されており、大気中の4倍、植物の5倍近くの量に相当(*1)するとも言われています。
すなわち土壌を健全に保てば地球温暖化対策になるし、破壊すれば温暖化をさらに加速させることに繋がるわけです。
また、食糧供給の観点からも、土壌の健全性は重要な問題です。
従来の農業では「食料生産の最大化」ばかりが重視され、重機や肥料、農薬が使用され続けてきました。
その結果、世界の農地の半分以上は劣化(*2)しており、世界中に食料を供給するための十分な土壌は50年以内になくなる可能性(*3)があるとも言われています。
地球温暖化や食糧危機など、人類が直面する危機の鍵を握っているのが土壌であると言っても過言ではないのです。
そんな背景から昨今、リジェネラティブ農業は注目されているわけです。
農法
不耕起栽培
リジェネラティブ農業の最大の特徴が不耕起栽培です。
不耕起栽培とは、すなわち畑を耕さない農法のことです。
健全な土壌は炭素を吸収し、そして貯留する役割を担っています。
しかし従来の慣行栽培のように畑を耕してしまうと、土中の有機物が露出し、土壌から二酸化炭素が放出されてしまいます。
ですから、土壌を耕さないことで、土壌は水分と有機物を保持し、より多くの炭素を大気から隔離する狙いがあります。
不耕起栽培は地球温暖化対策に繋がるわけです。
カバークロップ
収穫を目的とせず、土壌を覆うために植えられる植物のことを被覆作物やカバークロップと呼びます。
カバークロップは、雨風による土壌侵食を防いだり、土壌に有機物を供給・保持するのに役立ちます。
また、土壌の微生物の働きが活発化して作物の収量を増加させたり、休耕期には雑草の抑制にも繋がったりと、脱炭素意外にも多くのメリットがあります。
堆肥
畑や森林、放牧地に堆肥を投入することで、土壌の健康が増進され、炭素固定が促進されます。
微生物が豊富な堆肥は土壌構造を改善し、病気を抑制し、保水力を高め、土壌の生物多様性をサポートします。
輪作
単作栽培は土壌環境が単純化され、その土地に最適化された病害虫が育つ原因になります。
一方、同じ土地で周期的に育てる作物を変える輪作は、微生物に多様化をもたらし、土壌の栄養素を最適化する効果があります。
メリット
地球温暖化対策
国連食糧農業機関(FAO)によると、世界の温室効果ガス(GHG)総排出量の31%が食料システムに由来し、農業生産はその4割超、全体の13%に当たるGHGを排出しています(*4)。
すなわち、リジェネラティブ農業を導入して土壌を回復し、安定的に土壌へ二酸化炭素を貯留させることができれば、それは地球温暖化対策に繋がるというわけです。
世界経済フォーラムによれば、農家の5分の1が環境再生型農業などの「気候変動に配慮した」農業を採用すれば、2030年までに農業からの温室効果ガス排出量が年間6%減少(*5)する可能性があると試算しています。
生産量の向上
国際自然保護連合と国連による「アフリカにおける再生農業」報告書によると、アフリカで再生農業が実施されれば、作物の収量は2040年までに13%、将来的には最大40%増加する可能性がある(*5)という。
世界人口が増加する中、収量の向上は世界の食料供給に役立ちます。
認証
リジェネラティブ・オーガニック認証
パタゴニアやドクターブロナーが2017年に創設した認証プログラムがリジェネラティブ・オーガニック認証(ROC)です。
ROC認証は、土壌の健康、動物福祉、社会公平性という三本柱で構成された総合的な認証です。
日本でも今後リジェネラティブ・オーガニックは注目されるようになり、商品のうたい文句として使われる可能性は出てきます。
ですから、グリーンウォッシュを回避するうえでもROCは重要な基準になってきそうです。
Regenerative Organic Certified
さいごに
地球上で人類が生息可能な陸地のうち、すでに半分近くは農業で使用されていると言われています。
そう考えると、畑をどのように扱うのかは、もはや作物の味とか収量だけにとどまる話ではありません。
土壌を回復するか、あるいは破壊して炭素を放出し続けるのか、そうした地球の未来を左右する選択であるとも言えそうです。
気候変動という差し迫った脅威に直面するいまだからこそ、リジェネラティブ農業の普及について真剣に議論していく必要があるでしょう。
【参照】
(*1)土壌は温暖化を加速するのか?アジアの森林土壌が握る膨大な炭素の将来
(*2)Why empowering 100 million farmers to transform our food systems matters
(*3)WHY REGENERATIVE AGRICULTURE?
(*4)FAO(2021年)“FAOSTAT Analytical Brief 31”
(*5)Regenerative agriculture works: New research and African businesses show how
コメント