世界で使用される殺虫剤のうち16%、農薬のうち7%がコットンの畑で使用されています。
一枚のTシャツに必要なコットンの生産に2,700ℓの水が使用され、世界で2番目に環境汚染をしていると言われています。
そして環境問題だけでなく、ファストファッションによって途上国の生産者・労働者は搾取され続けています。
大量生産・大量消費だけを追求し続けてきたバングラデシュのビルが2013年に倒壊し、1100人以上の死者を出しました。
環境から人権まで、アパレル産業には数多くの解決すべき課題があります。
そんなファッション業界に対して問題意識を持ち、2011年からサステナブルファッションに取り組んでいる人がいます。
それが、サスティナブルアパレルブランド「ナインアール」を経営する松田潤(@9r_jun)さんです。
松田さんはなぜナインアールというブランドを創業することになったのか。
どんな経緯でファッション業界に問題意識を持つことになったのか。
今回は松田さんにインタビューをし、お話をお伺いさせていただきました。
事業内容
——貴社の事業内容について教えてください。
松田さん:MERCIというショップと、rrrrrrrrr(ナインアール)というサスティナブルアパレルブランドのD2C事業をしています。
九州の佐賀県佐賀市に路面店があり、自社ECサイトの運営と、楽天市場へ出店しています。
インスタグラムで、アパレルの社会問題を発信して弊ブランドのことを知ってもらい、ECサイトへアクセスしてもらっています。
縫製工場は自社で所有していませんので、日本国内の協力工場に縫製の仕事は外注しています。
【関連記事】rrrrrrrrr(ナインアール)がサステナブルと言える3つの理由とは?
起業の経緯
——事業を立ち上げた経緯について教えてください。
松田さん:現在のアパレル事業を立ち上げようと考えたのは、中学生の時です。
物心ついた時から女性の雑誌ばかり読んでいて、自分はいつかレディースファッションの仕事で独立するんだろうなと考えるようになりました。
その考えは高校に入ってからもブレることなく、ファッション系の専門学校である大阪モード学園に進学をしました。
専門学校を卒業した後、大手有名アパレル企業のグループ会社で企画や広報の仕事をさせてもらい、27歳になった時に地元の佐賀県で妻と2人でセレクトショップを起業しました。
起業を決めたキッカケは、東日本大震災でした。
いつか起業しようとは思っていたのですが、具体的にいつと決めておらず、ダラダラと時が流れていました。
そんな時に東日本大震災が起こったことで、真剣に自分の人生と向き合うことになりました。
いつ死ぬか分からないのに、自分がやりたいことを先送りにしていいのかと。
ですから東日本大震災のボランティアを行った後にすぐ起業準備に入り、半年後にセレクトショップをオープンしました。
ただ、セレクトショップを5年ほど経営する中で、セレクトショップをするのが嫌になる瞬間が多々ありました。
お客様に嘘を付いている気分になったからです。
流行という仕組みに対して疑問を感じて、すぐに価値が暴落する株を売っているような感覚になってきました。
元々在庫を持たないとか、服を破棄しないなどは取り組んでいましたが、それ以前に流行やトレンドという仕組みが苦しかったです。
このままアパレルの仕事をすることを辞めてしまおうと思ったくらい、アパレルのことが嫌になっていました。
しかし、どうせ辞めるのなら、最後くらい本当に自分がやりたかったことだけやってみようと決意をしました。
アパレルの本当の姿を発信して、アパレルの社会問題を伝えたり、自分たちが感じたことを伝えることが出来てないと再度奮起して、自分たちでブランドを作りモノづくりから再スタートすることにしました。
これが、今の言葉でいうとサスティナブルファッションという言葉になります。
サステナビリティを取り入れたきっかけ
——事業にSDGsを取り入れるようになった経緯を教えてください。
松田さん:一つには、すでに申し上げた通り「従来のアパレル」が嫌になったことが挙げられます。
しかし、本格的にサステナブルな路線に舵を切ることを決意したのは、高校生になる娘の存在です。
娘の小学校や中学校では、学校でSDGsのことを勉強しており、その宿題やレポートで資料をまとめている時に質問を受けることがあるんです。
私が学生だった頃と比べると、もはや教育内容は大きく変わっていて、子どもたちはよりグローバルな世界に足を踏み入れています。
ですから、私自身SDGsについての知識がなかった頃は、子供たちの質問に答えることが出来ませんでした。
これではいけないと思い、私自身もサステナビリティについて関心を持ち始めました。
これがセレクトショップを辞め、rrrrrrrrrとして再スタートするときのタイミングと重なります。
事業とサステナビリティを両立する難しさ
——事業とSDGsを両立するうえで課題に感じていることはありますか?
松田さん:正直に言うと、サステナブルを追求すればするほど儲かりにくくなる現状があります。
事業自体が持続可能性が高いかと言われると、SDGsに取り組めば取り組むほど、収支が苦しくなる壁とぶつかってます。
売上を伸ばそうとするということはすなわち資本主義の追求ですし、サステナビリティを取り入れようとすることは、すなわち自分たちの取り分を減らし、社会や環境に利益を分配をすることになりますからね。
後は、アパレル業界内でのビジネスパートナー探しに苦戦します。
そもそもアパレル業界自体がサステナビリティとは真逆にあるような業界です。
そのため、まだまだSDGsのことは一切考えていないという同業者が多いので、価値観が合わず、上手に意思疎通が出来ません。
例えば私たちはトレーサビリティの観点から工場のリアルとかもお伝えしていきたいと思っているのですが、工場の方たちは表に出たがらない人たちも一定数います。
それなりにご高齢の方もいらっしゃって、中には事業継承を考えていない方もいるので、新しいことを取り入れていくこと自体に抵抗感を抱く人もいらっしゃいます。
あるいは、私たちもそれなりに知名度が出てきて、営業を受けることも増えてきたのですが、利益のことしか考えておらず、SDGsを全く無視している会社も多いです。
個人でやっている取り組み
——個人で取り組んでいるサステナブルな習慣は何かありますか?
松田さん:やっていることは色々あります。
ただ、あえてファッションという文脈で述べるなら、一度買った服は3年くらい着用するようにしています。
というより、そもそも3年以上着用できる様な服しか買いません。
また、長く着続けるためにも、トレンド性の強い服は買わず、普遍的でシンプルなデザインを選ぶようにしています。
そして長く着用できて気に入った服は、全く同じ服か色違いでもう1着買って着回して、さらに長く着用できるようにケアします。
古着を買って、街の補正屋さんでリメイクしてもらったりします。
ファッション業界の今後
——ファッション業界は今後どうなっていくと思いますか?
松田さん:多様性という名の分断が沢山起きると思います。
今より更に超プチプラな服が出てきたり、逆に高い服が出てきたり、逆にただ衣類として着るだけの機能の服を着ていたり、サステナブルを意識する人や、全く意識しない関係無い人や、更に着飾る人など、多様性が認められる。
様々な分断が起こり、様々なコミュニティーがバラバラになっていく感じです。
それこそサステナブルファッションは高額な商品が多く、買う人は金銭的に余裕のある人が多いです。
もちろん環境意識が高い人が選びます。
じゃあお金を持っていない人は何を買うのかというと、やはりプチプラを選びますよね。
例えば中国のSHIEN(シーイン)というファストファッションブランドは、トップスで1000円~2000円という低価格帯に特化をし、ターゲットを上手く取り組み、急成長を遂げています。
しかしシーインを買う人は、あまりサステナビリティに関心がない人が多いです。
このように、所得や価値観によって選ぶファッションが異なっており、分断というものはすでに起こりはじめています。
あるいは、そもそも自分自身が着る洋服ではなく、自分のアバター用の服に投資する人たちも増えていくと思います。
いまメタバースが注目されていますよね。
所得や価値観だけでなく、空間的な分断もあるだろうと。
あとは、中身の無い浅いファッションインフルエンサーブランドは消えていくと思います。
ブランドはデザイナーではなくユーザーのために存在するべき、というお話をしましたが、それはここにも関わってきます。
結局、インフルエンサーの名前に依存しているブランドは、インフルエンサーとともに年を取っていってしまうので、長続きしないんですよね。
加えて、マーケティングとしてSGDsを取り入れるような、サスティナブルウォッシュのアパレルブランドが増えると思います。
実際、すでに私たちよりもすごいテクノロジーを用いてサステナブルな製品づくりをするようなブランドも登場しています。
ですから、私たちはこれまで一貫してサステナビリティに向き合ってきた姿勢は変えず、しっかり土台を固めていきたいです。
今後の展望
——今後、貴社で新たにやっていきたいSDGsの取り組みがあれば教えてください。
松田さん:自社で縫製ができるようなアトリエを作っていきたいなと思っています。
国内の縫製工場は事業継承が出来ずに今後少なくなっていくと想定してます。
それに、サステナビリティに関心がない工場も多いので、自分たちで作れるようになっておかないと、サステナビリティを追求しながらつくりたい商品を作り続けるのは難しいのかなと。
簡単なことではないことは理解してますが、自社で縫製ができる状況を作って準備しておくことは弊ブランドにとって重要なファクターになると思います。
また、現在は生産背景を透明性高く情報発信するために、国内で自分たちの目で確認できる場所で生産してますが、コロナの状況次第で海外の縫製工場にも目を向けて、海外の縫製工場も透明性高く発信できるような取り組みをしたいです。
私やディレクターと同様のレベルでSDGsやサスティナブルファッションについて深慮深く考え情報発信できる人事が重要です。
単純におしゃれ大好きみたいな社員は弊社には必要ないと考えています。
むしろ弊ブランドのユーザー様に必要とされないという感じです。
というのも、ブランドというものは、ユーザー様のためにあるべきだと私は考えています。
ファッション業界には、ブランドはデザイナーのものとか、ディレクターのもの、プロデューサーのものみたいな意識がある気がしています。
でもそれだと、その人がいなくなったらブランドは存在しえないわけです。
誰が提供していようが、誰が着ていようが、みんなが同じ価値観を共有できるのがブランドだと思っています。
つまり、私が発信していても、社員が発信していても、ユーザーが受け取る情報は常に同じ価値が担保される必要があるなと感じています。
あとは、透明性の高さを徹底していくことも今後の課題です。
弊ブランドの服の量産時には、弊ブランドの社員が必ず視察に行って、実際に自分たちの目で見て情報発信することを徹底していきたいです。
インタビューを終えて
インタビューの中で松田さんがおっしゃられていた
「サステナブルを追求するほど儲からなくなる」
というのはまさにその通りです。
現状、ビジネスとサステナビリティはトレードオフの関係にあります。
なにせ、「利益だけを追求する従来型ビジネス」を否定するところからスタートするわけですから。
特にファッション業界は「大量生産」「大量消費」をすることで拡大してきた業界です。
この仕組みに頼れないとなると、ファッションというビジネスは非常にハードモードになります。
ですから、経営者自身がサステナビリティに問題意識を持っていなければ、今この時点で受注生産を取り入れるという判断はなかなできません。
ファッション業界が抱える環境負荷や社会問題が改善されるには、ナインアールのように本気でサステナビリティと向き合う企業の商品が消費者から支持されることが重要なのだと思います。
ただおそらく、今後すべてのアパレルブランドは「サステナビリティ」を取り入れることが必須課題となるでしょう。
すでに世界はESG投資が普及し、「サステナビリティに取り組んでいる企業に投資をする」流れが加速していますから。
要するに、これから先の時代は、サステナビリティを取り入れることは差別化でもなんでもなく、企業の死活問題というわけです。
企業のサステナビリティを取り入れようと考えている人。
サステナブルファッションに興味がある人。
2011年からサステナブルファッションに取り組んでいる松田さんの考え方に触れてみませんか?
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