カポックノットが大切にしているのは機能・デザイン・サステナブル

ファッション業界といえば、非常に環境負荷の大きな業界です。

そのため、サステナビリティの導入が急務であることは多くの業界人が感じている課題です。

ただ、ファッション業界は良くも悪くも旧態依然とした企業も多いです。

ですから、脱炭素やSDGsと言われても、急に路線変更ができない企業も多いわけです。

そんなファッション業界において、76年間続くアパレル企業から、新たにサステナブルファッションブランドを立ち上げ、クラウドファンディングをはじめ多くの支持を獲得しているブランドがあります。

それが今回インタビューをさせていただいたカポックノットです。

カポックノットはどのようにして誕生したブランドなのか。

なぜカポックノットは多くの支持を得ることができたのか。

そんなお話を、代表の深井さんから伺いました。

事業内容

(左から広報の岩嵜さん、代表の深井さん)

——カポックノットの事業内容について教えてください。

深井さん:カポックノットは2019年10月に、クラウドファンディングで設立したブランドです。

私は、私の曽祖父が設立した76年間続く双葉商事というアパレル商社の4代目で、新規事業として立ち上げたのがカポックノットです。

ただ、次の世代として家業を引き受けていくにあたって、持続していくのが難しい業界であることも知りました。

当社はブランドのOEM、つまりメーカー側だったので、東南アジアの人件費がどんどん上がっていく中で、日本のアパレルの平均単価は変わらない。

コストは上がるのに単価は上がらないのでどんどん利益が削られていく。

このままでは家業を継続することは難しいと感じていました。

これは、当社に限らず、業界全体の課題でもあります。

この状況を変えていかなければならない現実に直面したときに、根本的にシステムを変える必要があると思いました。

当社の家業自体のルーツが「素材」だったので、「素材」から変えようと考えました。

「深喜毛織」という本家の会社がありまして、この会社は130年以上続いている会社で、日本で唯一残っているカシミアの一貫工場です。

CMIという世界で17社しかないカシミアの認定工場にも選ばれています。

そのため、何か変革をしようと思ったら、素材から入ろうというのは自然な流れでした。

また、私が学生時代のときからやりたいと思っていたのが「ソーシャルビジネス」でした。

社会貢献をしながら事業性のあるビジネスを生み出すことに興味がありました。

家業のルーツが素材にあったこと、私自身がソーシャルビジネスに興味があったこと、以上がカポックノットをスタートさせたきっかけです。

社会性があって事業性があるのはどんなものかを考えたときに「カポック」という素材に目をつけました。

カポックであれば木を伐採する必要もないし、動物を傷つける必要もない、という社会性がありながら、ダウンよりも安価につくれるため、事業性もあります。

社会性と事業性の両立を目指している自分にはハマる素材だったので、カポックをつかってブランドを立ち上げてることになりました。

——ベンチャー企業というイメージがあったのですが、老舗企業が母体だったのですね。

深井さん:ベンチャー企業だと、ものづくりのルーツや素材に関する経験や知識がありません。

その代わりに、SNSなどの発信が上手かったり、販売が上手かったり、というケースが多いと思います。

当社の場合は逆で、素材や製造といった「メーカー」という部分がルーツにあります。

そのため、いわゆるD2Cと呼ばれる業界の中では変わったポジションにいると思っています。

サステナビリティ

——カポックノットの事業の中でサステナビリティはどのような位置づけになりますか?

深井さん:カポックノットは機能・デザイン・サステナブルという3つの軸を大切にしています。

まずは機能が良くて、デザインも良くて、お客さんが満足してくれたうえでのサステナブル、が重要だと思っています。

「地球センタード」ではなく「ヒューマンセンタード」なブランドにしよう、ということはブランドを立ち上げる際にも議論しました。

ですから、サステナブル感度が高いお客様からも選ばれていますが、ビジネスサイドの人がご購入されるケースが多いです。

世の中には、サステナビリティに関する知識がなければ発言をしたり取り組んだりしてはいけない、という風潮があるような気がしています。

サステナビリティに関する情報に触れる必要はないかな、と思う人も多いはずです。

カポックノットの立ち位置としては、そういう人たちが気軽にサステナブルを取り入れられるようなブランドにしたいと思っています。

マルシェを開いたりしているのも、多くの人にもっと身近にサステナブルを感じていただきたいと思っているからです。

クラウドファンディング

——商品をリリースする際に毎回クラウドファンディングを利用されていますが、どれくらいの支援があるのですか?

深井さん:毎年1500万円以上の支援を頂いております。

ただ金額以上に、毎年500人以上から支持して頂いているというのが何よりありがたいです。

見たことも着たことも触ったこともない、2~3万円する商品を買うというのは本来なら勇気のいることですよね。

しかも半受注生産なのでお届けできるのは2~3か月後です。

それで毎年500人の人に支援してもらえているというのは本当にすごいことだなと感じています。

ちなみに最初、縫製工場に

「国内で300枚ほど縫ってもらえる工場ありますかね?」

という相談を恐る恐る聞きました。

こんな少量で受けてくれるのかな、と思ったからです。

ただ実際には、巨大ブランドでも一型1000枚、レギュラーアイテムで一型100枚というのは割と一般的だったんです。

なのでむしろ、工場からは「本当に300枚できるのか?」という疑いを持たれていました。

ただふたを開けてみたら600枚ほど発注することになったので、工場にも驚かれました。

私が300枚が少量だと思ってたのは、家業が年間100万枚くらい服をつくるメーカーだったからです。

だから、1000枚~2000枚のオーダーでも少ないという感覚がありました。

事業性と社会性の両立

——事業性と社会性を両立するうえで感じている課題はありますか?

深井さん:インドネシアの研究機関と5年契約を結んでカポックの品種改良や現地の雇用関係の改善なども行っています。

あるいは、一商品あたりのCO2排出量を算出するカーボンフットプリントも開示しているんですが、算出するのは非常に苦労しました。

でも、多くの時間と労力が割かれる割には、カーボンフットプリントを開示したこと自体は1円も生み出しません。

インドネシアの雇用関係の改善であったり、カーボンフットプリントの開示などは、短期的な事業性は薄いと感じています。

ただ、長期的に見たら事業としての見返りもあるだろうと感じています。

——歴史のあるアパレル企業でサステナブルファッションをやることの難しさはありましたか?

深井さん:家業を継ぐところからスタートしたのですが、カポックノットを別の会社にしたのは、理解が得られないだろうと思ったところがあります。

例えばカポックノットのコートが売れたから、それを半分の値段にして5000枚つくって売ればもっと売上が伸ばせる…みたいな提案があったのですが、これはどう考えてもサステナブルではないですよね。

それをやってしまったら、アパレル業界に課題を感じて、ゲームチェンジをするために家業からカポックノットを立ち上げた意味がなくなってしまいます。

途中から家業の方向性をシフトしてDNAを変えるのは無理だなと感じました。

ですから、立ち上げから別の会社にして、近い意識を持った人たちを採用してスタートしたのは正解だったなと感じています。

ただ、ゆくゆくは親の会社と合流させることができたらいいなと思っています。

伝統工芸をはじめ、失われそうな日本のものづくりというのは結構多いと思うのですが、家業とスタートアップを行き来することで事業承継をする、というのは日本なりのサステナビリティの答えになりうるのではないかなと思っています。

ファッション業界の今後

——ファッション業界は今後どのように変化していくと思いますか?

深井さん:サステナブル素材をつかったアパレルウェアが大量に生産され、大量に廃棄される、というのは必ず問題になるだろうなと思っています。

例えば、商品とかでも値段は下げてないけど内容量が減っている、なんてことがたまにありますよね。

ファッション業界でも同じようなことが起こると思っています。

なぜなら、リサイクル素材のようなサステナブルな素材は、基本的には普通の素材よりも原価が高くなるからです。

ただ値段を上げたら売れなくなるから、例えばポケットを1個なくしてみるとか、デザインを質素にしてみる、というシフトをするかもしれません。

こうなると、デザインで選んでいた人たちからは買ってもらえなくなりますよね。

モノだけで勝負したらサステナブル素材の洋服が負ける、ということは多々あると思います。

「デザインはちょっとダサいけどリサイクルポリエステルだから買おう」

ということにはならないと思うんですよね。

アパレル業界のトップランナーで、かつサステナビリティへの関心が低い企業が、いきなりサステナブルファッションに舵を切ったらそうなる可能性が大きいと思います。

そして、改めて「サステナブルとは何か」を考えさせられる時期が来ると思っています。

そこで「やっぱりモノが良いのは大前提だよね」という話に回帰する気がします。

これからサステナブルという潮流は加速するでしょうけど、いいモノをつくれているか否かが、生き残れるサステナブルブランドかどうかを左右することになると思います。

今後の展望

——今後の展望を教えてください。

深井さん:今年の大きな試作として、土に還るコートをつくろうとしています。

これまでのアウターとかは基本は化学繊維でつくることが多かったんですが、プラントベース100%でつくってみようと思っています。

去年の年末に特許を出願して、今は審査をしてもらっている段階です。

これが量産化できれば、世界にまだないブランドをつくれると思っています。

そして素材・加工・ブランドという3つの矢で攻めていこうと思っています。

素材は、品種改良やトレーサビリティや雇用関係を把握するといった部分。

加工は、例えばプラントベース100%のコートをつくるための綿とか資材などの開発。

ブランドは、カポックノットというブランド。

これら3本の矢で世界中にサステナブルで機能的な洋服を届ける。

そのために出来ることを1歩1歩着実に進めていく1年にしたいと思っています。

あと、お客様からよく

「カポックノット好きだけど秋冬物しかないよね」

というお声は頂きます。

なので、布団とか寝袋とか、洋服以外の商品開発というのも行っていこうと思っています。

インタビューを終えて

ここ最近はサステナブルを標榜するファッションブランドが増えています。

ただカポックノットが他のサステナブルファッションと明確に異なるのが、深井さんがおっしゃっていた「ヒューマンセンタード」なブランドであるという点です。

サステナブルファッションってどうしても「環境に良い」という点ばかりがフォーカスされがちなのです。

でも個人的に、従来の洋服に比べてデザイン性や機能性が劣る商品が多いなとも感じていました。

いくら環境に良い素材が使用されていても、消費者から選ばれず、廃棄してしまったら結局は環境負荷に繋がってしまいます。

まずは良い洋服を作るという点を重視しているからこそ、クラウドファンディングでも毎回多くの支持が得られているのだろうと感じました。

そしてこの視点は、歴史あるアパレル企業が母体にあるからこそ、持つことができているのだと思います。

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