パーム油とは?問題点や解決方法について解説

パーム油とは、アブラヤシの果実から採れる植物油脂のことです。

インスタント麺、スナック菓子、アイスクリームといったように、パーム油のおよそ8割が食品に含まれ、残り2割が石鹸や洗剤などの原料として使用されます。

世界で最も使用されている植物油でもあり、スーパーで売られている商品の50%以上にパーム油は含まれている(*1)といわれています。

日本人も1人あたり年間で約5kgのパーム油を消費(*2)しているとされています。

それくらい私たちの生活となじみ深いパーム油なんですが、実はその存在を全く知らないという人が結構多いです。

なぜそんなにパーム油についての認知度は低いのでしょうか

本記事ではそんなパーム油の問題点について解説をさせていただきます。

認知度が低い理由

まず第一に、ごま油やオリーブオイルのように、家庭で使うためのパーム油が売られていることはありません。

そのほとんどが、加工食品の原材料として使用されるのです。

「それじゃあ原材料の裏側を見てみよう!」と思ってパッケージの裏側を確認してみたとしても、やはりパーム油という文字は見つからないでしょう。

パーム油の認知度が低い点はまさにここで、パッケージの裏側に「パーム油」という文字が見つかることはほとんどありません。

どういうことかというと、パーム油は商品パッケージに

  • 「植物油」
  • 「植物油脂」

等と記載されるからです。

「マーガリン」や「ショートニング」と記載されている場合でもパーム油を含む場合があります。

化粧品や洗剤で使用される場合は「グリセリン」、「オレイン酸」、「脂肪酸」といった成分名で記載されます。

このように、知らないうちにパーム油を食べたり使用したりしていることがほとんど、というわけです。

そんなわけで、パーム油は「見えない油」と呼ばれたりします。

確かめる方法としては、メーカーのカスタマーセンターに連絡をして聞いてみるしかありません。

パーム油の問題点

パーム油はアブラヤシと呼ばれる植物から採ることが出来るのですが、どこでも生産が出来るわけではありません。

アブラヤシは赤道直下の熱帯地域でしか育ちません。

そのため、パーム油のほとんどがインドネシアとマレーシアで生産されています。

全パーム油のうち、インドネシアで55%、マレーシアで32%を占めています。

そしてパーム油の生産量は2010年~2030年の20年間でおよそ3倍に増えることが見込まれています。

一部の限られた地域でしか生産できず、世界で最も使用されていて、今後も需要が増え続ける。

これらの悪い条件がそろってしまい、パーム油を生産するためのアブラヤシ農園開発によって、熱帯雨林がどんどん伐採されていっているのです。

【関連記事】熱帯雨林とは?生態系・持続可能性・私たちの役割

なんと、インドネシア・スマトラ島の森林の56%、ボルネオの熱帯雨林の40%が消失してしまいました。

ボルネオに行くと緑豊かな景色が延々と広がっており、地上からではその光景のいびつさは分かりません。

しかし上空から観察すると、その緑の景色がいかに異様であるかがすぐに分かります。

デコボコと多種多様な木々が生えている森がある一方で、異様なほど整然と1種類の木が立ち並んでいる光景が視界に入ります。

多種多様な木々が生い茂っているところにこそ、生物多様性は育まれるのです。

それが、アブラヤシというたった1種類の木に置き換わってしまったら、ほとんどの生き物は生きられなくなります。

ボルネオの原生林は、生物多様性の宝庫とも呼ばれるくらい、多くの生物が暮らしています。

しかしパーム油の生産によって絶滅危惧種のオランウータンは住処を奪われ、ここ数十年間で50%~90%減少してしまいました。

皆さんが映画やゲームのお供につまんでいるポテトチップスのせいで、1400万年続いたと推定されるオランウータンの種はこの地球上から完全に消滅してしまうのです。

また、パーム油栽培が盛んな地域には「泥炭地」と呼ばれる場所があります。

水に浸かった土壌に、枯れた樹木などが分解されないまま数千年間蓄積し続け、形成されてきた泥炭のことです。

泥炭地は陸地面積の3%に分布し、全土壌炭素の1/3が蓄積されていると考えられています。

要するに熱帯泥炭地には大量のCO2が眠っているというわけです。

これらの泥炭地が森林伐採や火災によって焼失すれば、大量のCO2が大気中に放出されることになります。

このように、熱帯雨林は地球温暖化などにも影響が出てくるきわめて重要な場所なのです。

そのほか、パーム油の生産によって、児童労働や強制労働など、人に対しても悪影響が及んでいます。

【関連記事】泥炭地とは?特徴・重要性・危機的状況について

問題解決が難しい理由

パーム油生産によって多くの熱帯雨林が失われているのなら当然ゼロにすべきだと思う人もいるでしょう。

しかし、問題はそう単純ではありません。

パーム油をボイコットしてしまうと、今度は

  • さらなる森林伐採
  • 貧困問題

という別の問題を生みだしてしまうからです。

さらなる森林伐採

出典:パーム油 私たちの暮らしと熱帯林の破壊をつなぐもの

そもそもパーム油は、他の植物油に比べて生産効率が非常に高いからこそ、世界中で使われているのです。

パーム油は他の植物油と比べると単位面積当たり5~8倍の油が収穫することができます。

確かにパーム油は森林伐採に繋がりますが、パーム油をやめて大豆油や菜種油といった他の植物油に切り替えようとすると、さらに多くの森林伐採に繋がるのです。

貧困問題

パーム油の生産で生活をしている人が沢山います。

そしてそのほとんどが、決して裕福とは言えない小規模農家です。

パーム油生産に携わる小規模農家の人は300万人いると言われています。

パーム油ゼロを掲げ、メーカーがパーム油を使わなくなれば、パーム油の生産に関わる失業者が増え、貧困問題に拍車をかけることになります。

SDGsが掲げている「貧困をなくそう」という目標は、解決から遠のくことになるでしょう。

先進国の都合でパーム油を使い始めたのに、今度は先進国の都合で失業者を生み出すことは果たして正しいことなのか、という問題です。

【関連記事】SDGs(エスディージーズ)とは?17の持続可能な開発目標について解説

パーム油問題の解決方法

サラヤのヤシノミ洗剤

じゃあ私たち個人がパーム油問題に対して出来ることは何か?

それは、RSPO認証の商品を選ぶ、ということです。

RSPO認証とは、無計画な森林伐採をせず、熱帯雨林の持続可能性に配慮をして生産されたパーム油が使用されていますよ、という証明です。

商品パッケージの裏などに認証ラベルが記されています。

RSPO認証に対しては少なからず批判もあります。

そもそもRSPOが設定している基準自体に、持続可能性に懸念が残るという点。

また、そんな懸念が残るRSPOの基準ですら、満たしていないのに認証されているものがあるという点です。

しかしRSPOに対しては、基準自体への批判に加えて、基準を満たしていないものが認証されているという批判があります。こうした批判に応えて、RSPOでは基準の改定を重ねて監査体制の強化も進めてはいますが、十分な対応には至っていない状況と言えます。
基準の内容で問題となっているのは、まず、2015年に策定された「持続可能な開発目標(SDGs)」にも掲げられている「森林減少の阻止」が組み込まれていない点です。RSPOの基準では、保護価値の高い森林の保全は求めていますが、それ以外の一般の天然林についての保護規定はありません。そのために天然林を皆伐して農園に転換した場合でも、RSPO認証農園に認められます。一度伐採が入ったことのある「二次林」と呼ばれる天然林も、多くの野生動物にとっては非常に重要な生息地であり、熱帯林の生物多様性は突出しており、こうした森林の保全はとても重要です。
また、RSPOでは泥炭地開発を禁止していない点も問題です。パーム油は森林減少と泥炭湿地林開発による影響を考慮すると、全体として石炭よりも多くの温室効果ガスを排出することが明らかになっています。泥炭湿地林は「地球の火薬庫」とも呼ばれ、その地中には植物を由来として分解せず堆積した泥炭として炭素が閉じ込められていたのですが、農園開発により「火薬庫」の扉が開かれ、継続的で大量の温室効果ガスの排出が発生するとともに、森林火災のリスクが拡大しています。これらは気候変動に深刻な影響を与えています。
引用:パーム油認証の環境面での課題 | Soapbox

RSPOが「これは保護すべき森林だ」と認めた森林以外は、アブラヤシ農園のために新しく開墾することが出来てしまうんです。

優先順位はあるでしょうが、SDGsではそもそも地球全体として森林減少を阻止しましょう、という目標を掲げているわけですから、RSPOの管轄外の森林は無関係ですというスタンスはマズいです。

とはいえ、確かにRSPOの団体としての批判はあるものの、一消費者にとっては認証がない商品を購入するより認証がある商品を購入した方が、地球の持続可能性に貢献できることは間違いないわけです。

RSPO認証がさらに進化することを期待しつつ、私たちはRSPO認証がある商品を選びましょう!

【関連記事】RSPO認証とは?マークの意味やメリットを解説!

Q&A

健康に悪い?

私はよくパーム油問題に関する講演を実施しますが、一番よく聞かれる質問が

「パーム油は健康に悪くないのか?」

というものです。

パーム油はむしろ、健康に悪いことが明らかになったトランス脂肪酸の代替として人気を得た背景があります。

パーム油には抗酸化物質が豊富に含まれていて、脳や心臓の健康を改善するという研究結果もあります。

ただし、パーム油の健康効果を得ようと思ったら、たとえばオリーブオイルのように、油としてそのまま摂取する場合です。

しかし現実問題として、日本でパーム油を摂取しようと思ったら、基本的には加工食品から摂取することになります。

加工食品それ自体は健康にとって決して良いとは言えません。

本当に健康的な食生活を送りたいのなら、加工されていないホールフードを選ぶことをおすすめします。

出典:Palm Oil: Are There Health Benefits?

最後に

現状パーム油は「これで解決できる」という決定的な糸口は見出されていません。

RSPO認証を商品を選ぶという方法もありますが、世界中から多くの利害関係者が参加し、話し合いをする仕組みであるため、意思決定のスピードはどうしても遅くなります。

一方で世界の人口は増え続け、パーム油の需要も伸び続けいるわけですから、生態系の破壊を食い止めるには、RSPOだけでは不十分です。

「代替油」に関する研究開発も進んでいたりしますが、2024年の段階で、いずれもまだ研究室の域を出ないものばかりです。

安定供給が可能になり、市場に流通し、あらゆる消費者の手に取りやすい価格になるには、数年かかるでしょう。

じゃあパーム油問題は完全に手詰まり状態なのかと言われると、そうでもないと思っています。

パーム油の本質的な問題は、こと日本においては、あまりにも知名度が低すぎる点にあります。

ここまで読んでくださった皆さんは、すでにパーム油問題についてはよくご存じのことと思います。

じゃあ皆さんのご家族やご友人はどうでしょう?学校の同級生や会社の同僚は?

きっとパーム油問題はおろか、パーム油の存在自体知らないという方も少なくないはずです。

人口の8割以上がパーム油の問題を認識しているのに、問題解決の道筋が見えていないのなら、それは手詰まり状態にあるといえるかもしれません。

しかしながら、問題自体を認識している人が少ないのなら、まずは知っている人の母数を増やす必要があると思うのです。

どんな社会問題であれ、その問題を知っている人の数が増えれば、いずれブレイクスルーの瞬間はやってきます。

アディダスが海に浮くプラスチックを回収してスニーカーを作り始めたのは、海洋プラスチックゴミという問題を知っている人が沢山いて、そこに需要があると踏んだからです。

関心を持つ人が沢山いれば、そこに人やお金が集まり、解決に乗り出そうとする人が必ず現れます。

ですから、パーム油問題に関しても、まずは「知っている人の数を増やす」ことから出発する必要がありそうです。

ぜひパーム油の問題を周りの人に伝えてみてください。

【関連記事】ボルネオ島に行って見えてきたパーム油の根本的な問題とは?

参照

*1.Palm oil fact sheet
*2.パーム油と私たちのくらし | ボルネオ保全トラスト・ジャパン
パーム油の利用と生産 | パーム油調達ガイド
パーム油 私たちの暮らしと熱帯林の破壊をつなぐもの | WWF
パーム油ってな~に?-企業の原材料調達- | WWF
FAQ : ラッシュとパーム油の関係 | LUSH
熱帯泥炭生態系の炭素動態に関するフィールド研究 | 国立環境研究所

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