皆さんはヘンプという植物をご存知でしょうか。
ヘンプとは、アサ科の植物の一つで、数ある「麻」の種類の一つ。
麻といえば、大きく分けて
- リネン(亜麻)
- ラミー(苧麻)
- ヘンプ(大麻)
- ジュート(黄麻)
の4種類に分類することが出来ます。
そう、ヘンプとはつまり、大麻のことです。
ただ、多くの日本人は「大麻」という言葉に触れると反射的に
「違法」
「ダメゼッタイ」
というイメージが湧き、情報をシャットアウトしてしまいがちです。
ただ、世界に目を向けてみると、大麻という植物は、医療的にも産業的にも有用性が再評価されつつあります。
例えば2024年4月、ドイツでは大麻が合法化されたりしています。
大麻の是非を論じる前に、まずは正しい知識を持ったうえで大麻を評価をしてみませんか?
というわけで、本記事ではヘンプという植物について詳しく解説させていただきます。
ヘンプの定義
ひとくちに大麻といっても、実は大きく2種類に分類することができます。
それが「ヘンプ」と「マリファナ」です。
多くの人が「大麻」と聞いてイメージする「ハイになる」植物は、ヘンプではなく「マリファナ」と呼びます。
そして、一般的には、ハイになるような成分が含まれていない、あるいは非常に少ない大麻のことを「ヘンプ」と呼びます。
マリファナではなくヘンプと認められるかどうかを分ける基準は「THC」です。
THC(テトラ・ヒドロ・カンナビノール)は大麻の葉や花に含まれる成分で、ハイになる、つまり向精神性をもたらすのがTHCです。
国によってヘンプとして認められるTHC含有量の基準が異なり、
- ヨーロッパはTHC0.2%以下
- アメリカ・カナダではTHC0.3%以下
- スイス・タイではTHC1%未満
をヘンプとして定義しています。
(残念ながら、日本には今のところヘンプに関する法律上の定義はありません。)
そして基準値を超えるものはマリファナ(カンナビス)と定義され、違法と見なされます。
ちなみに日本で昔から栽培されてきた大麻は、まさにヘンプに該当する大麻であり、THCが非常に低いものだったと言われています。
ですから、日本では長い歴史において大麻が栽培されてきたのにも関わらず、大麻を日常的に吸引する慣習が生まれなかったのです。
ただし戦後GHQによってマリファナとヘンプが同列に扱われ、一律で栽培が禁止されてしまいました。
また、戦後は徐々に化学繊維が普及し、天然繊維の需要が低下したことも、国内におけるヘンプ生産が縮小した大きな原因です。
カンナビノイド(生理活性物質)
大麻には「THC」と呼ばれる成分が含まれていることはすでにお伝えした通りです。
しかし大麻に含まれる成分はこれだけではありません。
大麻にはカンナビノイドと呼ばれる生理活性物質が104種類も含まれています。
代表的なところでいえばCBD(カンナビジオール)が挙げられます。
街中でCBDオイルという商品を見かけたことがあるという人も多いのではないでしょうか?
CBDには、THCのような向精神性がなく、むしろ美容や健康に役立つと期待されています。
CBDの安全性や有効性については世界保健機関(WHO)も認めています。
ところで、日本では当たり前のようにCBD関連の商品がお店で売られていますが、これは法的に問題ないのか?と疑問に思う方もいらっしゃるかもしれません。
実は、大麻といっても、すべての部位が違法とされているわけではありません。
大麻取締法で規制をしているのは草や花の部分であり、成熟した茎や種は規制の対象外なのです。
茎や種には向精神性をもたらすTHCが含まれていないため規制されていないものと思われます。
そして現状日本で売られているCBDオイルは、規制の対象外である茎や種から採取されるCBDであることから法的に問題ナシというわけです。
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産業用大麻
大麻には大きく分けて「医療用」「産業用」「嗜好用」という3種類の活用方法があります。
多くの日本人は「大麻」と聞いたら、吸引してハイになるような、アンダーグラウンドなイメージしか持っていないかもしれません。
この場合、皆さんがイメージしているのは「嗜好用」としての大麻です。
しかし大麻がいま「ヘンプ」という言葉とともに世界中で評価されているのには理由があります。
それはヘンプが、様々な商品の原料として活用できるからです。
ここでは「産業用」としてヘンプがどのように活用できるかについて紹介させていただきます。
洋服
麻の洋服と言われればリネンを思い浮かべる人が多いと思います。
実際、洋服の品質表示のタグに「麻」と記載されるのはリネンとラミーだけです。
そして近年ではCBDオイルの流行なども相まってヘンプ自体の注目が集まり、洋服の繊維としてのヘンプも注目されています。
ただし、ヘンプの場合は「麻」ではなく「指定外繊維」として記載されます。
通気性が良い | リネンと同じくヘンプに関しても通気性が高く、肌に張り付きにくいため、夏服にピッタリの生地です。 |
---|---|
シャリ感が強い | リネンやラミーよりもシャリ感があり、肌触りがより涼しく感じられます。 |
耐久性が高い | ヘンプをはじめとする麻の繊維は自然素材の中で最も強度の高い素材と言われています。どれくらい強度が高いかというと、エジプトのミイラにまかれた麻の包帯が今でも原型をとどめているくらいです。 |
耐水性が高い | ヘンプは水にも強く、水に濡れるとむしろ強度を増すくらいです。 |
防臭効果 | ヘンプは繊維自体に天然の制菌性が備わっており、カビや雑菌の繁殖を抑えてくれるため、洋服の防臭効果が非常に高いのです。 |
速乾性 | ヘンプ繊維には無数の微細な空洞があり、その空洞が汗と熱を空気中に発散してくれる役割を持ちます。そのため、汗をかいても乾きが早いのです。 |
熱伝導率 | 麻は夏の服というイメージが強いです。しかしながら、熱伝導率が低いため、夏涼しいだけでなく、冬は暖かいのです。 |
美容
ヘンプの種から絞ったオイルは化粧品として活用されています。
有名なところでいえば、THE BODY SHOPで20年以上愛され続けているロングセラーのヘンプシリーズ。
ヘンプシードオイルは保湿力とエモリエント効果が非常に高いと言われています。
バイオマスプラスチック
プラスチックの原料といえば石油です。
しかし、ヘンプにかかればプラスチックすら生み出すことができます。
ヘンププラスチックは、石油を消費することなく生産可能なバイオプラスチックです。
もちろん生物由来なので生分解して自然に還ります。
たとえばドイツBMWなどはヘンプとポリプロピレン(PP)の複合材料をドアパネルに採用したりしています。1
また、プラスチックは生産過程で多くのCO2を排出しますが、麻は育つときに大量のCO2を吸収するため、生産過程ではCO2排出量より吸収量の方が多い(カーボンネガティブ)と言われています。
ヘンプミルク
麻の実からミルクをつくることができます。
牛乳は排出するCO2、森林伐採、水の量など、あらゆる観点で環境負荷が高いです。
そんな背景もあり、最近はヘンプの実から作られるヘンプミルクが世界中から注目されているのです。
ただ、筆者もヘンプミルクを飲んだことはありますが、正直味は美味しくはありません。
【関連記事】ヘンプミルクとは?味・栄養素・メリットを徹底レビュー
家
ヘンプを使ったコンクリート、いわゆる「ヘンプクリート」で家を作ることができます。
ひと昔前の日本では麻が断熱材として用いられていたことからも、断熱性能が高い住宅をつくることができます。
材木は一度使えば成長するまでに20年近くかかりますが、ヘンプなら110日ほどで成長するため、非常に持続可能性の高い住宅です。
天然素材であるため、家を解体する際にも、鉄筋コンクリートなどに比べると非常に環境負荷が低い住宅です。
サステナビリティ
ヘンプがいま世界中で注目されている最大の理由は、とても環境負荷の小さいサステナブルな植物だからです。
ここでは、いかにしてヘンプが持続可能な社会に貢献してくれるかを紹介させていただきます。
水の使用量が少ない
コットンはTシャツ1枚製造するのに2,500リットルもの水が必要になります。
しかしヘンプは人が水を与える必要がありません。
自然に降る雨と太陽の光だけで育ちます。
そもそも大麻は、わざわざ畑をつくって人間が管理をしなくても、その辺の道端に野生大麻として勝手に自生してしまうくらい生命力の強い植物です。
明治期に国策として栽培が奨励されていた北海道では、栽培が規制された後も自生する大麻が絶えなかったため、もしかしたら今でも見つかる可能性があります。
(ちなみに見つけた場合は警察に通報してください。勝手に持ち帰るのは違法です。)
すべての部位を活用できる
ヘンプは茎・種・葉・花穂・根まで、収穫した素材のほぼ100%を活用することができます。
茎は洋服の繊維や紙に、種子は食品や化粧品として活用されます。
茎(ストーク / ストーム)
- 繊維(バスティファイバー)
- ヘンプの茎から得られる繊維は非常に強靭で耐久性があり、以下のような製品に利用されます。
- 衣類、布地
- ロープ、網
- 紙(高品質の紙や再生可能な用紙)
- 繊維は抗菌性や吸湿性も備えており、エコ素材として注目されています。
- ヘンプの茎から得られる繊維は非常に強靭で耐久性があり、以下のような製品に利用されます。
- ヘンプクリート
- 茎の中芯(シャーヴ、ハードコア)は、建材として利用されます。
- ライムや石灰と混ぜて作られる「ヘンプクリート」は軽量で断熱性や調湿性が高く、環境にやさしい建築資材です。
- バイオ燃料
- 茎はエタノールやバイオディーゼルなどの再生可能な燃料の原料になります。
種子(ヘンプシード)
- 食品
- ヘンプシードはスーパーフードとして評価され、高品質な植物性タンパク質、オメガ3脂肪酸、ビタミン、ミネラルが豊富です。
- ヘンプシードオイル(サラダ用ドレッシングや料理用油)
- ヘンププロテインパウダー(スポーツサプリメントや健康食品)
- スナックやシリアルバー
- ヘンプシードはスーパーフードとして評価され、高品質な植物性タンパク質、オメガ3脂肪酸、ビタミン、ミネラルが豊富です。
- 化粧品・スキンケア
- ヘンプシードオイルは保湿性や抗炎症性に優れ、スキンケア製品やヘアケア製品に利用されます。
花・葉
- 医薬品
- 花や葉にはカンナビノイド(CBD、THCなど)が含まれており、主に以下の用途で活用されます。
- CBD製品:不安の軽減、疼痛緩和、睡眠改善のためのオイル、カプセル、エディブル製品。
- 医療大麻:特定の疾病(てんかん、多発性硬化症など)の治療薬として使用。
- 花や葉にはカンナビノイド(CBD、THCなど)が含まれており、主に以下の用途で活用されます。
- アロマ製品
- 花や葉の成分は精油として抽出され、リラクゼーション目的のアロマセラピー製品に利用されます。
- 肥料・堆肥
- 収穫後の残渣は土壌改良材や堆肥として利用可能です。
根
- 医薬的利用
- ヘンプの根は伝統的に炎症や腫れを抑える目的で薬草として使用されてきました。
- 土壌改良
- 根が残ることで土壌の構造が改善され、次回の作物栽培に貢献します。
全草(収穫後の残渣)
- バイオマスエネルギー
- ヘンプ全体は発電や熱源として利用可能なバイオマスエネルギーの材料になります。
- 動物の飼料やベッド材料
- 動物用の餌や、馬や家畜のベッド材料として活用されます。
大量のCO2を吸収
植物は成長する際に光合成をして大気中の二酸化炭素を吸収します。
産業用ヘンプは、1ヘクタールあたり22トンのCO2を吸収することができます。
さらにヘンプは年に2回の栽培が可能なので吸収量は2倍です。
世界中の多くの国々では、CO2を吸収する手段としてヘンプの栽培を奨励し、栽培農家に炭素クレジットを発行しはじめています。
ケンブリッジ大学の上級研究員であるDarshil Shah氏によると、ヘンプは森林に比べて2倍効率的に大気中の炭素を回収することができるといいます。
Darshil Shah氏は以下のように述べています。
「多くの研究で、麻はCO2をバイオマスに変換する最も優れた素材のひとつであると推定されています。樹木よりもさらに効果的です。工業用ヘンプは、栽培面積1ヘクタールあたり8~15トンのCO2を吸収します。それに比べて森林は、生育年数、気候地域、樹木の種類などにもよりますが、一般的に1ヘクタールあたり年間2~6トンのCO2を吸収します。」
【参照】
・The Role of Industrial Hemp in Carbon Farming
・Hemp “more effective than trees” at sequestering carbon says Cambridge researcher
カーボンネガティブ
世界は今、カーボンニュートラルの世界を実現しようとしています。
つまり、生産から消費までのサイクルにおいて、
「排出されるCO2と吸収されるCO2の量がプラマイゼロに収まるようにしよう」
という取り組みがカーボンニュートラルです。
しかしヘンプの場合、CO2吸収力の高さゆえ、ヘンプ製品をつくると、最終的にプラマイゼロどころかマイナス、つまりCO2吸収量の方が多い「カーボンネガティブ」になりえるのです。
欧州産業麻協会(EIHA)によると
「ヘンプの生産はカーボンネガティブです。つまり、ヘンプの収穫、処理、輸送に使用される機器から排出されるよりも、成長中に大気からより多くの炭素を吸収します。」
と述べています。
成長が早い
ヘンプは光合成効率が高く、太陽光を効率的に利用できるため、成長スピードが非常に早い植物です。
播種から収穫まで約90~120日で成長します。
一般的には、種を撒いてから3~4か月で高さ約4~5メートルに達します。
条件が良い場合、1日に2~3センチメートル程度成長することもあります。
このような速い成長スピードにより、年間で複数回の収穫も可能な地域が存在します。
…と言われても、他の植物がどれくらいのスピードで成長するか分からなければ、ヘンプのすごさが分からないと思いますので、参考までにほかの植物の成長を以下に記載しておきます。
成長期間 | ヘンプとの比較 | |
---|---|---|
木材(樹木) 例:スギ、ヒノキ、オークなど | 成長に20~30年以上かかります。 高さが同程度の4~5メートルになるまででも数年を要します。 | ヘンプは木材に比べて圧倒的に早く成長し、同じ土地で短期間に多くのバイオマスを生産できます。 |
コットン(綿) | 約6~7か月 | コットンも比較的早い作物ですが、ヘンプの方が成長が早く、同じ面積でより多くの繊維を生産できます。 ヘンプは1ヘクタールあたり約1.5~2倍の繊維量を生産します。 |
トウモロコシ (バイオエタノール原料作物) | 約100~120日 | トウモロコシと同等の期間で収穫可能ですが、ヘンプはトウモロコシよりもバイオマス生産効率が高く、建材や燃料など幅広い用途に活用できます。 |
竹 | 竹は非常に速い植物として知られ、1日に1メートル以上成長することもあります。 ただし、完全な成熟には3~5年を要します。 | 短期的な成長スピードは竹が勝りますが、ヘンプは数か月で完全に収穫可能で、成長後すぐに幅広い用途に利用できる点が優れています。 |
農薬必要なし
コットンは栽培する際に多くの農薬が使用されます。
世界の農薬の6.8%、殺虫剤の15.7%がコットン生産で使用されています。
しかしヘンプはとても成長が早く、害虫に強いという特性があります。
そのため、栽培時には農薬や肥料を全く必要としません。
また、除草剤も必要ありません。
ヘンプは草よりも成長が早いため、むしろ成長した麻が日陰をつくるため、草は自然と枯れてしまいます。
どこでも栽培可能
ヘンプは冷帯、熱帯、どんな気候でも栽培が可能です。
実際のところ、ヘンプはかつて数千年にわたってあらゆる大陸で栽培されており、洋服の繊維として活用されてきました。
「キャンバス(Canvas)」という言葉が「大麻(Cannabis)」に由来していることを示唆する証拠さえあります。
いまでは国連貿易開発会議(UNCTAD)が、すべての国がヘンプの法的地位を明確にし、ヘンプの活用を推奨しています。
世界には資源を持つ国とそうでない国が存在し、そうした格差が、国家間の不平等を生み出し、労働搾取や児童労働などを生み出すことになりました。
そう考えると、どんな地域であってもしっかり産業として確立できるヘンプを国連が推奨するのは非常に理にかなっていると言えます。
・Hemp timeline throughout history
・Hemp’s versatility and sustainability offer huge opportunities for developing countries
輪作が可能
土壌の健康状態を改善し、土壌の栄養分を最適化し、害虫や雑草の被害を抑えるために、同じ土地に異なる作物を連続して植える方法を輪作(ローテーション栽培)と言います。
ヘンプは播種から収穫まで約90~120日と成長が早く、他の季節作物と組み合わせた輪作が可能であるため、単一栽培による環境負荷を減らすことが可能です。
短い成長期間 | ヘンプは播種から収穫まで約90~120日と成長が早いため、他の季節作物と組み合わせた輪作が可能です。 例えば、春にヘンプを植え、秋に別の作物を育てることができます。 |
---|---|
土壌改良効果 | ヘンプは深い根を持ち、土壌を深くまで耕す役割を果たします。 根の成長により土壌の通気性が向上し、次作の根が育ちやすくなります。 また、ヘンプの収穫後の残渣は有機物として土壌に還元可能です。 |
病害虫の抑制 | ヘンプは自然に害虫を抑える効果があり、農薬の使用を減らせます。 他の作物に影響を及ぼす病害虫のサイクルを断つ効果が期待できます。 |
雑草抑制 | ヘンプは成長が速く、広い葉を持つため、畑全体を覆い尽くし、雑草の発生を抑えます。 次作の雑草対策が簡単になるという間接的な利点もあります。 |
窒素の効率的利用 | ヘンプは窒素肥料を効率的に吸収するため、過剰施肥を防ぎます。 また、一部の作物(例:マメ科作物)と組み合わせると土壌窒素をさらに豊かにできます。 |
害虫を駆除
ヘンプにはテルペンやカンナビノイドといった化学物質が含まれており、これが害虫にとって忌避成分となり、土壌病害虫を駆除します。
その結果、後続の作物の収穫量が向上します。
ヘンプ栽培によって小麦の収量を10~20%増加2させると言われています。1
テルペン類(リモネン、ピネンなど) | 強い香りを放ち、多くの害虫(アブラムシ、コナジラミなど)を遠ざける効果があります。 |
---|---|
カンナビノイド(CBD、THCなど) | 害虫だけでなく、一部の微生物にも防御効果を持つとされています。 |
土壌改良
ヘンプの根は1~2メートルまで深く伸びることがあり、土壌の通気性を向上させます。
深く伸びた根が土壌をほぐし、圧縮された土壌(硬盤層)を緩和します。
水が土壌に浸透しやすくなるため、水はけが良くなり、排水性の悪い土地に適しています。
その昔、日本では痩せた土地でもソバや野菜を栽培できるよう、土壌改良のために麻を一緒に植えたと言われています。
ファイトレメディエーション
出典:北見農業試験場の研究
最近の研究によると、ヘンプを栽培した土壌では、化学肥料などをまいた際に蓄積される「硝酸性窒素」を除去する効果が認められたそうです。
ヘンプは、他の植物が届かないほぼ地中深くに根を張るため、土壌中の栄養素を利用して、土壌に栄養分を加えるのです。
海外でも、ヘンプに土壌改良の効果があるとの研究結果が報告されています。
ヘンプは、ファイトレメディエーションと呼ばれるプロセスで、地中の有害物質を浄化します。
1990年代半ば、チェルノブイリ原発事故があった周辺地域に数千本のヘンプが植えられました。
2008年には、イタリアのターラントにある農業地域で、鉄鋼工場によって汚染された土壌からダイオキシンなどの汚染物質を浸出させるためにヘンプが栽培されました。
【参照】
・北海道ヘンプ協会
・The Role of Industrial Hemp in Carbon Farming
・https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8912475/
・https://hightimes.com/news/how-cannabis-cleans-up-nuclear-radiation-and-toxic-soil/
食糧問題
ヘンプは人類が直面する食糧危機の救世主となる可能性があります。
ヘンプの種は「ヘンプシード」として食べることが可能であり、ヘンプシードは非常に高い栄養素を含んでいることからスーパーフードとも呼ばれています。
ただ、ヘンプの可能性は他にもあります。
ここ数年、米国ではヘンプ栽培が拡大しており、ミツバチの食料がほとんどない時期に、ヘンプがミツバチに食物を提供できる可能性があると、コロラド州立大学の新しい研究3は結論付けたのです。
雌雄異株で雄しべのあるヘンプは、風媒花であるため、ミツバチが好む花粉を大量に生産します。
この研究が行われたコロラド州北部のヘンプは、7 月末から 9 月末の間に開花します。
この時期は、この地域で花粉媒介者に適した作物が不足している時期と一致しており、ヘンプの花は、採餌ミツバチにとって潜在的に貴重な花粉源となっているのです。
ミツバチは、世界の植物のおよそ8割の受粉を媒介4していると言われており、ミツバチが絶滅すれば、人間が食糧とする植物の多くは食べられなくなると言われています。
アインシュタインも、ミツバチが絶滅してから4年で人類も絶滅すると予言したほどです。
世界のミツバチは年々減少傾向にありますが、ヘンプがミツバチの食糧となる花粉を提供してくれるのであれば、ひいてはミツバチの個体数増加に繋がる可能性もあります。
日本と大麻
大麻に対するイメージを「ダメゼッタイ」でシャットアウトせず、日本人こそ大麻について理解を深めるべきです。
なぜなら、世界でも類を見ないほど、日本と大麻には深い結びつきがあるからです。
歴史や伝統
日本と大麻の結びつきの起源は1万2000年前にさかのぼります。
縄文
縄文前期の鳥浜貝塚から種子と縄・編物が出土しています。
「縄文」という言葉は、古代の土器に付けられた縄をころがしたような模様があったことに由来しますが、この縄こそまさに麻縄だったのです。
繊維
衣料原料、魚網、蚊帳、畳表の縦糸、紙の原料などとしても幅広く使われてきました。
江戸時代には「三草四木」の一つとして挙げられ、商用作物として非常に重視されてきました。
【三草四木】
江戸時代、穀類以外に農家にとって重要な三種の草(麻・藍・紅花または木綿)と、四種の木(桑・茶・楮・漆)をいう。
食用
大麻の種子は稲・大豆・小豆・大麦などとともに食用として「九穀」のひとつに数えられます。
江戸時代から流通するようになった日本の調味料「七味唐辛子」にも麻の実が含まれています。
紙
奈良時代に制作され、世界最古の現存印刷物と言われる法隆寺蔵の「百万塔陀羅尼」は大麻紙に印刷されています。
麻の葉模様
日本の伝統模様である「麻の葉模様」は、大麻の葉がモチーフになっています。
麻はとても丈夫で、成長が早いことから、模様に「子どもの健やかな成長」の意味を込め、産着の定番のデザインになったのです。
鬼滅の刃に登場する「ねずこ」が着ている洋服も麻の葉模様があしらわれています。
万葉集
飛鳥時代から奈良時代にかけての税制度「租庸調(そようちょう)」では、麻や麻布が諸国の産物をおさめる「調」の対象となりました。
それほど、国家の財源として重要な位置を占めていたのです。
7世紀後半から8世紀後半にかけて編纂された日本最古の歌集「万葉集」では、麻について詠まれた歌が30首近くあります。
『麻衣着ればなつかし紀の国の妹背の山に麻蒔く我妹』
麻衣(あさごろも)を着ると、紀の国の妹背の山に麻の種を蒔く彼女がなつかしくなる。
万葉集 第7巻 1195番歌
『娘子らが績み麻のたたり打ち麻懸けうむ時なしに恋ひわたるかも』
娘子らが麻を紡ぐ時に使う打った麻をたたりにかける、そうやって績(う)むように、倦むこともなく恋い続けています。
万葉集 第12巻 2990番歌
『庭に立つ麻手小衾今夜だに夫寄しこせね麻手小衾』
庭に植えた麻で作った麻の上ぶとん。出来たての今夜は夫が寄ってきてくれないかな、この麻の上ぶとんに。
万葉集 第14巻 3454番歌
神道
神道では大麻は神の象徴として扱われてきました。
たとえば伊勢神宮のお神札は「神宮大麻」と呼ばれており、天照大御神の魂が宿るとされています。
祓い串の中央(御真)には願いが籠ると考えられ、御真には大麻の繊維がまかれていました。
また、大麻の繊維はその清浄性と神聖さを象徴しており、悪いエネルギーを祓う力があると信じられてきました。
神事のときに神職がヒラヒラと振ってお祓いをする神具(祓串)のことも大麻と呼ばれています。
ちなみに神道では大麻のことを「おおぬさ」と呼んだりします。
横綱
平安時代に農作物の収穫を願う神事として行われたきた相撲も、やはり麻と密接な関係にあります。
相撲で横綱力士が締める綱には、大麻の茎の靭皮から取られた精麻が使用されます。
生産
2015年の厚生労働省の資料によると全国の麻の栽培面積は約595aで、そのうち栃木県の麻栽培面積は全国の73%を占めています。
さらに、その栃木県内の94%が鹿沼市で栽培されており、鹿沼市は日本一の麻生産のまちとなっています。
衰退
出典:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000193867.html
戦前にはお米と並ぶほどの生産量を誇った麻でした。
しかし戦後GHQから大麻生産の規制を強化する旨の要請があったこと、化学繊維が普及したことなどにより、麻の需要は徐々に減少。
戦前には3万人を超える生産者がいましたが、現在では30名しかいません。
ちなみに国際的に麻薬植物扱いをされていたのは幻覚作用のあるインド大麻です。
日本で栽培されていた大麻は主に繊維向けに栽培されてきたものだったので幻覚作用が非常に少ないものでした。
現在国内で栽培されている「トチギシロ」も、品種改良によってほとんどTHCが含まれていません。
規制緩和
ここまで日本における大麻生産の悲惨な現状について解説させていただきましたが、さすがに日本も大麻を再評価する世界の潮流を無視するわけにはいかず、規制緩和の動きがあります。
2023年12月に大麻取締法が改正され、「大麻取締法」は、「大麻草の栽培の規制に関する法律」という名称に変わり、2024年12月12日に施行されました。
大麻草を原料にした医薬品の使用が可能になる一方で、若者などの乱用を防ぐため、大麻の不正使用に対する取締りも強化されました。
また国内で栽培できる大麻の用途についてはこれまで「神事」などに限られておりましたが、2025年3月からは、医薬品の原料を抽出する目的として栽培することも可能になります。
世界の大麻政策
産業用 | 医療用(ハーブ) →医療用大麻 | 医療用(Sativex) →カンナビノイド医薬品 | 嗜好用 | |
---|---|---|---|---|
アメリカ | ○ (2019年~) | ○ (1996年~35州) | 臨床試験終了 | △ (2014年~15州合法) |
カナダ | ○ (1998年~) | ○ (2001年) | ○ (2005年~) | ○ (2018年~) |
イギリス | ○ (1994年~) | ○ (2018年) | ○ (2010年~) | × (非犯罪化) |
フランス | ○ (禁止していない) | ○ (2021年) | ○ (2013年~) | × (2018年~禁錮刑廃止) |
ドイツ | ○ (1996年~) | ○ (2017年) | ○ (2011年~) | 〇 (2024年~) |
イタリア | ○ (2002年~) | ○ (2013年) | ○ (2011年~) | × (非犯罪化) |
オランダ | ○ (1996年~) | ○ (2003年) | ○ (2012年~) | × (1976年~非犯罪化) |
ベルギー | ○ (1996年~) | ○ (2006年) | ○ (2015年~) | × (2003年~非犯罪化) |
スウェーデン | ○ (2007年~) | × (違法) | ○ (2011年~) | × (違法) |
スイス | △ (THC1%超違法) | △ (例外的許可) | ○ (2013年~) | × (2013年~非犯罪化) |
日本 | × (ほぼ不許可) | × (ほぼ研究不可) | × (輸入不可) | × (違法) |
出典:「大麻、その禁じられた歴史と医療の未来」
世界的に大麻が規制されるようになったのは1925年からです。
1912年の万国阿片条約を補足した1925年に大麻の流通や使用が初めて制限されたのです。
そして1961年、後続の麻薬に関する単一条約により前文に「麻薬の中毒が個人にとって重大な害悪であり」とし、輸出入・流通・生産、所持が規制されることになったのです。
しかし2016年に大麻に関する世界的な規制は大きな転換点を迎えることになります。
世界保健機関(WHO)による証拠の見直しが進められ、規制の格付けが科学的証拠に従っていないこと、一定の医療価値が見出されたことなどから、大麻関連の規制が降格することになりました。
そして2020年には麻薬委員会がまとめた各国投票を通じて、「医療価値が危険性を上回る」という条約の分類から大麻が削除されることが決定されることになりました。
出典:http://cannabis.kenkyuukai.jp/information/information_detail.asp?id=108328
最後に
大麻やヘンプという植物について熱量多めに解説させて頂きました。
大麻の是非についてはイデオロギー論争の的になりがちなので、あえてこの記事で「嗜好用も解禁すべき」といったことは申し上げるつもりはありません。
少なくとも日本でのマリファナを使用することは、現行法では違法なので皆さまお気を付けください。
一方で、世界中でヘンプに対する再評価が行われているいま、日本も国際社会の一員として、マリファナとヘンプの違いについてはしっかり啓蒙していくべきだと思います。
特に、日本ほど伝統や歴史と大麻が密接に結びついている国は非常に珍しく、世界でも大麻イベントなどが行われる際、「日本ブランド」というのは非常に大きな価値を持ち始めていたりします。
ただ当の日本人は全くヘンプや大麻に対する理解がないのは残念です。
ぜひともサステナブルな社会の実現に向け、ヘンプの有効性に目を向けてもらいたいものです。
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