海洋プラスチックゴミが問題になっている昨今、脱プラスチックは重要なキーワードとなっています。
我が国でも2020年にレジ袋が有料化され、また2022年にはスプーンやフォークなどプラスチック12品目に有料化が拡大されます。
ただ、マイカトラリーはいかなる場面でも必ずサステナブルな選択かと言われると、必ずしもそうとは言えません。
マイカトラリーは水や洗剤を消費する必要があるわけですからね。
自宅の電気が再エネなのか、あるいは洗剤に含まれる植物油脂は持続可能性に配慮されているのか等、複数の条件を考慮する必要があります。
いずれにしても、使い捨て食器とマイカトラリーは、どちらがサステナブルかというよりも、場面に応じて使い分けることが重要です。
ですから、世界には今、プラスチックの代替となる使い捨て食器が求められています。
そんな中、丸紅株式会社がedishと呼ばれる循環型食器を事業化し、実証実験を行っています。
edishとは一体どのような食器なのか?
なぜ循環型食器と呼ばれているのか?
本記事では、開発担当者様へのインタビューを通してedishという商品の実態に迫ってみたいと思います。
edishとは?
edishとは、これまでほとんど活用されてこなかった食べ物の皮や芯といった食品廃材を独自の技術でアップサイクルをした食器のことです。
原料は、資源管理された森からつくられるパルプと、カカオを焙煎したときに出る皮が使われています。
またカカオのほかに、コーヒー、お茶、みかんなど、これまで再利用が難しかったバイオマス資源も、edishでは有効活用されます。
どちらも自然素材であり、また生み出された資源を無駄なく有効活用していることから、人にも地球にも優しい食器なのです。
インタビュー
2019年に丸紅の社内で実施されたビジネスコンテストでedishを一人で考案した簗瀬さん。
コンテストで優勝をして、edishの事業化にこぎ着けたそうです。
今回はedish開発者の簗瀬さんからお話を伺いました。
edishが誕生した経緯
——どのような経緯でedishを事業化することになったのですか?
簗瀬さん:私は以前、セルロースナノファイバーという素材を担当していました。
当時、取引があったお客様の中に、スピーカーの振動板を作っている企業がありました。
その企業様とお付き合いをさせていただく中で、紙の素材でどんな形にも成型できる「パルプモールド」という技術を知りました。
ちょうど世間でも脱プラスチックが注目され始めていた時期でもありました。
そこで、パルプモールドの技術があればどんなものでも作れるようになるのではないか、と思いました。
特に、使い捨てのものに関しては、パルプモールドの技術に大きな需要があると感じました。
また、これまで色々な素材を担当してきたのですが、以前ある製粉会社から「ふすま」(小麦の表皮)が有効利用できないか、という相談を受けたことがありました。
多くの場合ふすまは豚のエサとかになってしまうのですが、それをパルプモールドに入れて、アップサイクルができないか?という風に思いついたのがきっかけです。
どうせ豚のエサになってしまうのなら、一度人間が使い終わったあとで、もう一度活用ができないかな、という発想から循環させることを考えるようになりました。
edishの素材について
——原料に小麦を採用した理由を教えてください。
簗瀬さん:正確にはすでに小麦ブランをやめております。
小麦ブランだと、食物アレルギーがある方が使えないというデメリットがあったからです。
ですから、いまはカカオハスク(焙煎したときに出る皮)をメインに使用しております。
カカオハスクについて
——小麦からカカオに切り替えたことによるデメリットなどはありましたか?
簗瀬さん:いえ、ありません。
むしろカカオに切り替えた方が食器の強度が高くなりました。
また、小麦ふすまは豚のエサにもなりますから、本当の意味ではゴミではありません。
ただ、カカオハスクには使い道がなく、廃棄処分されるだけでした。
捨てられるはずだったものに新たな価値を生み出せるという意味でカカオに切り替えることにしました。
さらに言うと、現状のスタンダード商品としてはカカオがメインなのですが、実際には色々な食品の残渣とパルプを混ぜてedishを作ることができます。
例えばもみ殻や、お茶っ葉を出したあとのカス、コーヒー豆の皮、リンゴジュースやみかんジュースの搾りかす、ワインをつくる際のブドウの搾りカスからもつくることが出来ます。
最近は食品メーカー様で発生した残渣からedishをつくり、そのメーカー様が何らかの形でedishを使って頂くというケースも増えています。
edish開発の苦労
——商品を開発する際に苦労したことはありますか?
簗瀬さん:パルプモールドの技術はもうあったので、edishを作ること自体に大きな苦労はありませんでした。
最初のうちは、耐水性や、油を入れたら染みてしまう、といった問題はありましたが、すぐに克服できました。
今でも苦労しているのは、生分解性です。
油を入れても汁物を入れても染みないということは、逆に言えば堆肥化するのが難しくなります。
カカオと一緒に混ぜているパルプも難分解性のものです。
強度を維持することと生分解性を両立することが今後の課題です。
edishが採用されている場所
——edishが採用されているイベントや飲食店などはありますか?
簗瀬さん:沢山ありますが、例えば昨年は江の島の海の家で採用して頂きました。
そこでは堆肥化する業者さんにも協力して頂き、食器の堆肥化までをやりました。
あとはスーパーホテル様にも朝のビュッフェの食器として導入して頂きました。
ビュッフェでは食品ロスも発生するので、食品の廃棄と一緒に堆肥化して頂いております。
その他にも、色々な飲食店様やイベントで採用されています。
Instagramのedish公式アカウントにも掲載しているので、ぜひご参考にしてみてください。
事業とサステナビリティの両立
——事業とサステナビリティを両立するうえで課題に感じていることはありますか?
簗瀬さん:当社で感じる課題というよりも、課題に感じられているお客様は多いように思います。
例えばedishの導入を提案する飲食店様が挙げられます。
普通のプラスチック容器に比べればedishは金額的に高い方です。
飲食店様にとってみれば、利益も追及しなければいけないんだけど、脱プラスチックもしなければいけない。
こういったビジネスとサステナビリティの両立を課題に感じられているというお声はよく耳にします。
今後の展望について
——edishの今後の展望について教えてください。
簗瀬さん:この一年間、メンバーを増やしながら実証実験をやってきました。
その中で、消費者の環境に対する意識が向上していることが分かってきました。
例えば、川崎フロンターレの2021年最後のホームゲームで、スタジアムグルメの食器として使って頂きました。
そこでは、普通のプラスチック容器を選ぶと一杯500円、edishにすると550円という値段設定で提供をしていました。
edishの方が50円高いわけですが、7割くらいの方からedishを選んで頂きました。
また、年明けにも同じような実証実験を慶応大学でも行いました。
やはりそこでも、edishを選ぶ人が多いという結果になりました。
少し高くなっても環境問題に貢献したいと考える人が増えたのだなと感じています。
まずは環境意識の高い人たちを中心に、もっと受け入れてもらえるようになりたいなと考えています。
そして、そういう方たちが気にされるのは、食器を使い終わったあと、ゴミにすることなく、いかに循環できるか、という点だと思います。
ですから、どんな場合でも堆肥化できるようにする、あるいは循環できるようにする、というのが今後の目標です。
最後に
以上が丸紅株式会社のedish開発者、簗瀬さんのインタビューでした。
一般的なバイオマスプラスチックだと、サトウキビやトウモロコシといった生物資源が採用される場合があります。
生物資源であれば確かに石油こそ消費しませんが、人が食べる分の食糧と耕地面積が競合するという問題があります。
ただ、edishで採用されているカカオハスクの場合、人が食べることはなく、家畜の飼料になることもないため、全く有効活用がされてこなかったそうです。
「サステナブルな商品を作るために新しく資源をつくる」
のではなく
「すでに生み出されていて全く活用されてない資源を有効活用する」
という点において、edishはサーキュラーエコノミーに大きく貢献する商品だと感じました。
しかも、一つの素材だけに依存しないという点も重要な意味を持っています。
例えばカカオが生産されるのは西アフリカや中南米ですから、原料価格が高騰したり、供給が滞ったりするリスクと常に隣り合わせです。
しかしedishはカカオだけでなく、日本で栽培できるお米のもみ殻、お茶、リンゴといった残渣も活用できるわけですから。
環境に配慮しているというだけでなく、絶え間なく供給し続けることができる、という意味において、edishは非常に持続可能性の高い商品と言えるでしょう。
今はまだ実証事業の段階みたいですが、ぜひ本格的に事業展開をして欲しいなと強く感じました。
コメント