サステナビリティという文脈において、残念ながら日本はネガティブに語られがちです。
脱炭素の目標数値が低くて化石賞を受賞してしまったりとか、SDGsの認知度が低いなどなど…。
やはり欧米の消費者に比べると、環境とか社会問題に対する意識のギャップは、少なからずあるんだろうと思います。
そんな中、ニュージーランドと日本、二か国での生活を通してギャップを感じたことがきっかけとなり、オープンしたオンラインショップがあります。
それがエシカル商品を取り扱うTwoTreesです。
ニュージーランドと日本には一体どのような生活様式や価値観の違いがあるのか。
TwoTreesはどんな商品を売り、どのようにサステナビリティと向き合っているのか。
今回はTwoTreesの代表である鈴木さんにお話を伺ってきました。
事業内容について
——TwoTreesさんの事業内容について教えてください。
鈴木さん:セレクトした商品や自社でつくった商品を展開しています。
例えばミツロウラップやシャンプーバーなどはニュージーランドでセレクトしたものを販売しています。
ミツロウラップはマヌカハニーの蜜蝋を使っています。
元々ミツロウラップはニュージーランドではどの家庭でもあるような、ごく一般的な商品です。
日本国内のミツロウラップもいくつか使ったことがありますが、ニュージーランドのものは使い心地も良いです。
柄に関しても、日本のだとシンプルな柄のものが多いんですが、ニュージーランドのミツロウラップは派手な柄があったりしてとてもユニークです。
一方、竹歯ブラシは自社商品を展開しています。
コスト・工場・原料などの都合で、日本国内ではまだ見つけられていないので、中国で生産をしています。
竹歯ブラシって頻繁に買い換える消耗品なので、皆さん何千円も出せないですよね。
しかし、ニュージーランドから輸入するとコストがかかってしまいます。
なので、なるべく歯ブラシやフロス、スポンジといった消耗品は手が届きやすい価格にするため、自分たちで作ることにしました。
セレクトしたニュージーランドの商品にしても、自社の商品にしても、共通して私たちが大切にしているのは、ゴミが出ない「ゼロウェイスト」という点です。
それから、生産・使用・廃棄のライフサイクル全体において、環境に配慮するということを大切にしています。
起業したきっかけ
——なぜエシカルな商品を扱うショップをオープンしようと思ったのですか?
鈴木さん:私自身、小さい頃から高校生くらいまでニュージーランドに住んでおりました。
ニュージーランドには、日本のようにコンビニや100円ショップがありませんでした。
なので、気軽にペットボトルの水を買うこともできないので、マイボトルを持ち歩くしかありませんでした。
プラスチック容器に入ったお弁当も売っていないので、必要があれば自分で作ってもっていく必要があります。
ニュージーランドは2~3年前に法律でレジ袋が禁止されましたが、それ以前からマイバッグを持ち歩くのが当たり前でした。
そして大学生のとき、日本の学校に進学するために帰国したのですが、何を買うにしてもプラスチックがあふれていて、逆カルチャーショックを受けました。
そのときは学生だったということもあって、脱プラをしたりといったサステナブルな行動には移せていませんでしたが、とにかくショックを受けたことは鮮明に覚えています。
大学を卒業したあとはすぐに結婚をして妊娠をしました。
そして、里帰り出産をするために久しぶりにニュージーランドに帰ったのですが、学生のころに通学時に通っていた海がとても汚れていてることに気が付きました。
プラスチックに囲まれた日本に住んでいたときは
「ニュージーランドでの生活は良かったな」
「ニュージーランドではエコな生活が送れる」
と思って帰ってきたのですが、ニュージーランドですらこんなに環境汚染が進んでいたことに衝撃を受けました。
環境破壊とか気候変動というものを、目で見て肌で実感したのです。
そのときに環境のために何かをしたいと思い立ちました。
ニュージーランドなら、量り売りショップは身近にあるし、シャンプーバーも普通にスーパーに売っているので、すぐに行動に移せる環境が整っていました。
しかし里帰りが終わり、日本に帰国したら、それを続けることが出来ません。
日本で量り売りショップや、シャンプーバーやミツロウラップを売っているお店を探したのですが、なかなか見つかりません。
それなら、自分でやればいいのではないか、と考えるようになりました。
そして最初はミツロウラップをクラウドファンディングに出しました。
あまり大きな期待はしていなかったのですが、最終的には目標金額の倍くらい集まりました。
同時に、
「こういう商品を探していたんです!」
といったお声を沢山いただきました。
このとき、こういう商品を求めている人は多いけど、日本では買えない現状があるのだということに気が付きました。
そしてミツロウラップだけでなく、もっとサステナビリティの意識を日本に広められるポテンシャルがあるのではないかと考えました。
そんな背景があり、オンラインショップをオープンして、少しずつ商品を増やしていくことになりました。
ニュージーランドと日本
——ニュージーランドと日本に住んだことがある鈴木さんにとって、消費者のサステナビリティに対する意識のギャップを感じることはありますか?
鈴木さん:例えばニュージーランドだと、ケーキを食べたいと思っても、日本みたいにワンカットだけ売っていたりすることはありませんから、自分で粉から作るしかありません。
あるいは、サランラップやジップロックはニュージーランドだととても高いですが、日本だと100円ショップとかで安く手に入れることができます。
多くの日本人はきっと、便利で安い商品が100円で買えるのに、洗ったりする手間のかかるミツロウラップを20倍の値段を出して買うモチベーションにならないですよね。
でも、ニュージーランドだったら、「環境に優しくて繰り返し使えるならミツロウラップを選ぼうかな」という人が普通にいるんです。
あと、日本だと消費税が上がったとき、テイクアウトだと8%、店内飲食だと10%という線引きがされましたよね。
店内で食べればゴミが出なくて済むのに金額が高くなって、逆にテイクアウトだとプラスチックゴミが出るのに安くなる、という状況です。
でもニュージーランドの場合、テイクアウトにすると容器代が100円とか200円プラスで取られるのが普通です。
だからこそ、みんな店内で食べようとか、家から容器を持っていこう、となるんです。
このように、ニュージーランドでは、多少金額が高くても、多少手間がかかっても、環境に配慮する選択が自然と出来る人が多いように思います。
ニーズの拡大について
——サステナブルな商品のニーズは高まっていると感じますか?
鈴木さん:とても感じます。
1~2年前に私がミツロウラップをクラウドファンディングに出したときは、まだ「新しい商品」だという認識の人が多かったように思います。
ただ先日、展示会をやったとき、多くのお客様と直接お話をしたのですが、そのときはむしろミツロウラップを知らない人の方が少なかったです。
この1年で認知度が高まったことを肌で感じました。
あるいは、竹歯ブラシにしてもそうです。
ニュージーランドには以前から竹歯ブラシがありますし、当然私も使っていたのですが、4~5年前くらいに友人に対して竹歯ブラシの話をしたら
「竹歯ブラシって何?」
「竹で磨くことが想像できない」
という風に言われたことがありました。
ただ、私がオンラインショップをオープンしてから、友人たちに
「どんな商品を売ってるの?」
という話を聞かれ、竹歯ブラシを売っていることを伝えると
「あぁ、あの竹歯ブラシね」
といった反応が返ってくることが増えました。
私が竹歯ブラシについて説明をしなくても、みんなどこかで竹歯ブラシを見たり聞いたりしているんですよね。
今までだったら「一部の人だけが知っている情報」だったものが、今では誰もがテレビやネットで見たりして、環境意識が高くない人でも竹歯ブラシについて知っている。
世間のサステナビリティに対する認知度がそれだけ高まっているんだと感じています。
——鈴木さんが起業された当初よりも、エシカルな商品を扱うお店も増えたのではないですか?
鈴木さん:そうですね、そう思います。
ただ、私が起業をしたのは、環境負荷を減らしたい、子どもたちに綺麗な海を残したい、ということが背景にありました。
ですから、エシカルな商品を扱うECサイトも増えたと思いますが、それだけエシカルな商品の需要が伸びていて、環境負荷の低減に繋がっているわけです。
エシカルな商品を扱うお店が増えて、市場が拡大して、結果的に環境負荷が低減すれば、それはいいことだと思います。
商品について
——TwoTreesさんが扱っている商品はどんなこだわりがありますか?
鈴木さん:最初はヘッドが大きくてブラシの部分ももっと大きかったんです。
海外の歯ブラシって大体大きいですよね。
そして、初期のお客様から
「ヘッドをもっと小さくしてほしい」
「もっとブラシを小さくしてほしい」
といったご意見を頂いたので、小さく改良をしていきました。
鈴木さん:あるいは石鹸もそうです。
ニュージーランドをはじめ、海外の石鹸は、たとえエコな商品でも、ニオイが強い商品が多いんですよね。
でも日本だと無香料や、ナチュラルな香りの方が好まれたりしますよね。
なので、日本のお客様たちの意見を積極的に取り入れながら、最適な商品をつくるようにしています。
お客様と一緒に良い商品をつく、ということを大切にしています。
鈴木さん:また、ヘチマスポンジを取り扱っていたのですが、何度か
「もっとスポンジ感のある商品が欲しい」
というお声を頂くことがありました。
確かに、ヘチマは水に濡れても硬いんですよね。
相当使いこまないと柔らかくなりません。
そのため、もっとスポンジの使用感に近い商品をご用意しました。
セルロースとココナッツの繊維で出来たスポンジです。
こちらの商品は水に濡らせばすぐにスポンジのように使うことが出来ます。
ちなみに、ニュージーランドの商品は、ほとんどがスモールビジネスです。
一人の方が、手作りでつくったような商品が多いです。
この商品はどんな人が作ったのか、というストーリーも大切にしています。
鈴木さん:例えばこのミツロウラップも、もともとシェフだった方がつくった商品です。
シェフの世界大会みたいなのがあって、ニュージーランドの代表として出られた方です。
そのシェフの方が毎日厨房で大量のラップを使い捨てていて、プラスチックゴミの量に問題意識を持っていたそうです。
どうしたらキッチンから出るプラスチックゴミの量を減らせるだろう、と思ってつくったミツロウラップなのです。
つまり、本当に環境に配慮したいという想いから生み出された商品なんです。
そういった作り手の想いをシェアする、スモールビジネスをサポートする、というのも私たちが大切にしているコンセプトです。
事業とサステナビリティの両立
——事業とサステナビリティを両立することの難しさはありますか?
鈴木さん:環境・社会・経済すべてに配慮することの難しさを感じています。
このビジネスをはじめたとき、自分自身のサステナビリティへの理解が足りないと感じました。
しかし、販売する者として、なぜこの製品が環境に優しいと言えるのか、ということをしっかり説明できる必要があるなと思いました。
エシカルな商品を買おうとする多くのお客様は環境に対する意識が高い方も多いですし。
なので、自分自身で知識を身に着けるため、大学院に入りました。
今も大学院生としてサステナビリティ学を学びながら経営をしています。
「サステナビリティ」は学問の定義だと、Enviroment(環境)だけでなく、Social(社会)や、Economic(経済)も含まれます。
つまり、仮に環境と社会が成り立っていても、経済が成り立っていなければサステナブルとは言えません。
例えば、いくらエコな商品を売りたいからといって、大幅に商品の値段を下げたとして、それは購入者にとってはサステナブルかもしれません。
しかし、商品価格を下げるために生産者や労働者に適正な賃金が支払われないのなら、それは経済という観点からサステナブルとは言えません。
ですから、事業とサステナビリティを両立することの難しさを感じつつも、環境・社会・経済すべてを成立させることができるんだ、ということを証明していきたいです。
大切にしていること
——事業を運営するうえで大切にしていることはありますか?
鈴木さん:極論を言えば、すべてを捨てて、何も買わず、我慢し続けるのが環境にとっては良いかもしれません。
それこそ、なるべくパッケージだって無駄な装飾をなくして簡素にした方がいいのかもしれません。
しかし、それは多くの人にとって持続可能ではないと思っています。
何かを続ける上では「無理なく」とか「楽しい」は大切です。
そして結果的に負荷がかかっていなければそれが理想です。
例えばなるべくかわいいパッケージデザインを選んだりとか、プレゼントにあげたいなと思えるようなものとか。
そうしたら、エコに興味はないけど、デザインが可愛いから買ってみよう、という人もいるかもしれません。
環境負荷を下げることが目的なので、入口がどうであれ、行動が結果的に環境に良ければそれでいいと思います。
今後の展望
——TwoTreesの今後の展望を教えてください
鈴木さん:日本でもサステナビリティに対する認知度は高まっていますが、まだまだ普及できるポテンシャルはあると思っています。
ですから、私たちの商品を通して、これからもエコフレンドリーな意識を広げていきたいとは思っています。
例えば固形シャンプーを買い、ゴミが出ないことの素晴らしさに気づいて、それがきっかけで、ミートフリーマンデーもやってみようかなとか、別のアクションに繋がったら嬉しいです。
私たちの商品が、ライフスタイルが変わる一つのきっかけになったらいいなと。
商品を沢山売りたいとか、会社をすごく大きくしたいと思っているわけではありません。
私たちのショップが、誰かがサステナビリティに関心を持つきっかけになる。
そんな存在であり続けたいです。
インタビューを終えて
鈴木さんが今後の展望としておっしゃっていた
「ライフスタイルが変わる一つのきっかけ」
というのは、今後日本でサステナビリティを普及するうえでとても重要な役割だと感じました。
というのも、良くも悪くも世界ってそう簡単に変わらないんですよね。
例えば、巷ではレジ袋が有料化したことをもってして
「どれだけ環境負荷が下がったのか検証すべき」
という声もありました。
確かにレジ袋を有料化しただけで海洋プラスチック問題が解決するなんてことはありません。
でも、レジ袋有料化が一つのきっかけとなって
「エコバッグに切り替えるのはそんなに難しくなかったし、マイボトルももってみようかな」
といった行動変容に繋がったら、より大きな環境負荷の低減に繋がる可能性を秘めています。
もしかしたら、シャンプーバー1個買っただけでは世界は救えないかもしれません。
でも、シャンプーバー1個が、多くの人々がライフスタイルを変革するための入り口になりうるのです。
そして日本は、まだまだサステナビリティを意識したライフスタイルを送っている人が多いとは言えません。
ですから、日本でサステナビリティを普及するうえで、TwoTreesには大いなる存在意義があるのだと思います。
そしてTwoTreesの商品がさらに売れるということは、より一層サステナビリティが普及していることの裏返しであるとも言えるでしょう。
TwoTreesで買い物をして、持続可能な社会の実現に一票を投じませんか?
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