あらゆる産業においてサステナビリティというキーワードの重要度は日々増しています。
例えば世界で2番目に環境汚染をしているアパレル業界は、サステナブルファッションが普及しつつあります。
あるいは世界のCO2排出量の18%を占めている畜産が問題視されていることから、プラントベースという食事が注目されています。
そして改善が迫られているのは、美容室業界も例外ではありません。
何しろ全国にある美容室の数はコンビニよりもはるかに多いと言われているわけですから、環境への影響は少なくないはずです。
そんな美容室業界において、サステナビリティに本気で取り組んでいるお店があります。
国内外で35店舗を構えるヘアサロンLond(ロンド)です。
今回は、Londの代表取締役である石田さんに、サステナビリティへの取り組みについてお話を伺いました。
事業内容について
石田さんの自己紹介と、事業内容について教えてください。
石田さん:株式会社ロンドの代表取締役、石田吉信と申します。
主に美容室を運営しておりまして、国内に28店舗、海外に5店舗、またアイラッシュサロンを2店舗、全部で35店舗を展開しています。
2013年に専門学校のクラスメイト6人で共同代表として起業し、今年で9年目になります。
会社の根幹にあるのが「スタッフファーストの経営」です。
具体的に言えば、人が辞めない組織作りに注力しています。
もともと美容室業界は離職率が高いという問題を抱えていたので、それを改善したいという点。
また、スタッフの経済的な豊かさとやりがい、物心両面の幸福の追求を心がけています。
実際に離職率を下げることに成功し、色々な雑誌に取り上げていただいたり、経営者セミナーにお呼び頂いたり、経営本を出版させていただく機会もいただけました。
ですから、今も昔も、従業員を大切にするということを最も大切にしています。
LondとSDGs
企業として取り組んでいるSDGsのアクションはありますか?
石田さん:店舗の電力会社を再生可能エネルギーに切り替えています。
美容室は全国におよそ25万店舗、コンビニの5倍くらいあると言われています。
ここの電力を切り替えることが出来れば大きなインパクトがあると思っています。
まずは当社から再生可能エネルギーを導入し、業界全体に普及させたいです。
ですから、当社は再生可能エネルギーの「みんな電力」に切り替えております。
店舗はもちろん、スタッフの自宅の切り替えも促したりしています。
先日はみんな電力さんにお越し頂いて、社内でエネルギーの勉強会を開催したりしました。
ただ、現状では全店舗の切り替えができていない点が課題です。
中にはビル全体で電気料金を支払っていて、それをテナントに分配して家賃に上乗せする、というビルがあるんです。
こういうケースだと、ビルごと電力会社を切り替えないといけないので、なかなか難しいんですよね。
必ずビルのオーナーには交渉しに行っているんですが、切り替えてもらえるのは1~5%くらいです。
これからも粘り強く交渉し続けていきたいと思っています。
石田さん:また、2020年にはヴィーガンシャンプー「リランス」をリリースしました。
美容室のオリジナルシャンプーとして英ヴィーガン認証を取得しているシャンプーは他にあまりないと思います。
ヴィーガンの人たちの選択肢が増えることにもなりますし、また、ヴィーガンではない人たちに対してヴィーガンへの認知が広がるのではないか、と考えています。
普通のシャンプーに動物性の原料が含まれているとか、動物実験が行われているとか、多くの人は知らないと思うんです。
ですから、リランスを知っていただいた方に
「このシャンプーに動物性の原料が含まれていないということは、他のシャンプーには含まれているんだ」
という気づきが提供できると思っています。
そして、ヴィーガンシャンプーを入り口として、畜産と環境問題について考える機会をつくりたいです。
あとは、4ℓ for 1 Bottleというプロジェクトを行っています。
4ℓの量り売りのリフィルが1個売れると、児童養護施設の子どもにシャンプー1本を届ける、プロジェクトです。
これまで売れたのが200ℓなので、合計50本ほどプレゼントしてきました。
あと、今はパンデミックによって実行できていませんが、児童養護施設で海洋プラスチックゴミ問題などのセミナーをしたいなと思っています。
シャンプーの量り売りを一つのスタンダードにすること、児童養護施設に対する世間の認知を広げること、また児童養護施設の子供たちにも環境問題への理解を広げていく、この3点セットを4ℓ for 1 Bottleを通して実践していきたいです。
石田さん:あとはLondヘアサロンの全てのセット面にサステナブルマガジンを置いています。
気候変動や海洋プラスチック、あるいは人権問題といったサステナビリティに関する情報を掲載している雑誌です。
年間およそ15万人くらいのお客様が来店されるので、その人たちがサステナビリティについて知るきっかけとなったらいいなと思って設置しています。
本当に色々な職業の方が来店されますので、例えば「この雑誌を社内で共有してもいいですか?」という質問がきたりすることもあり、機能している実感があります。
電子書籍だけにすることも考えたんですが、やはり雑誌の方がすぐに手に取って読んでもらいやすいかなと思っているので、FSC認証を取得した紙の雑誌を置いています。
また、サステナブルマガジンを置いておくことで、スタッフも読んだりするので、社内教育にも繋がります。
美容師がサステナブルな活動で何が出来るのかを考えたら、やはり「伝える」ことだと思っています。
昔でいえばカリスマ美容師なんて言葉がありましたが、担当の美容師が言うことはお客さんに「刺さりやすい」気がしています。
例えば美容師がカット中の何気ない会話の中で
「最近、気候変動のことを考えて電力会社を変えたんですよ」
「マイボトル買ったんです」
「これオーガニックコットンのシャツなんです」
とか、そういう話をしたら、お客様に「今はそういうのがオシャレなんだ」と思ってもらったりすることができるんじゃないか、という風に思っています。
そして、すぐそばにサステナブルマガジンがあれば、そういう会話に繋がりやすいとも思っています。
そのほか、児童養護施設でボランティアカットをしたり、ヘアドネーションをしていたり、90%リサイクル素材の壁や産業廃棄物となる貝を混ぜた壁を内装に使うとか、各店に一人はエシカルチームのメンバーを配置したり、コピー用紙・ティッシュペーパー・ハンドペーパーをすべて再生紙にしたり、アスクルさんに段ボールではなくコンテナーで送ってもらったりとか…細かいのを言えば沢山あります。
ヴィーガンシャンプーについて
ヴィーガンシャンプーのリランスを商品化するのは大変でしたか?
石田さん:サステナブル商品としてというよりも、シャンプーとしてのクオリティをあげることに注力しました。
商品化にいたるまでの1年間、スタイリスト13人に、自分たちの髪の毛でテスターをしてもらいました。
泡立ち、洗浄力、香りなど、シャンプーとして良い物を作ることに最も時間をかけました。
市販のシャンプーの中にも、完全にオーガニックで、自然由来の原料オンリーで、みたいな商品もすでにあるにはあります。
ただそういった商品は、シャンプーとしての機能性が落ちたりすることが往々にしてあります。
例えば今回、自然香料にするのか、合成香料にするのか、という点も迷いました。
自然香料の方が良さそうではありますが、スタッフたちが「良い」と思った香りは合成香料でした。
お風呂の時間に香りを楽しむということもQOLを上げることに繋がりますから、無視することはできません。
たとえサステナブルに特化していても、リピートされなければプロダクト自体が持続可能ではなくなってしまいます。
ですから、サステナビリティの追及と、シャンプーとしての機能性、このバランスをとることに苦労しました。
ただこの葛藤があったからこそ、リランスのシャンプーとしてのクオリティには自信を持っています。
サステナビリティを取り入れたきっかけ
Londにサステナビリティを取り入れることになったきっかけは何ですか?
石田さん:もともと美容室業界は一番売上がある人が社長になって、ほかのスタッフは弟子、みたいな職人気質の世界でした。
私たちがアシスタント時代に育った美容室もそのような感じでした。
ただ、社長がいつまでも売上がある美容師のままだと、一番忙しい美容師ということになりますから、「経営」がおろそかになります。
ですから、私たちが起業する前には共同代表たちと
「お客さんはどんどんスタッフに振って自分たちはハサミを置いていこう」
という取り決めをしていました。
そして起業してから2~3年がたち、サロンワークが減ったあと、少し時間に余裕ができたので、自分の人生を改めて考えることにしました。
そんな中で、ケン・ローチ監督の「わたしは、ダニエル・ブレイク」という映画に出会いました。
ケン・ローチ氏はすでに監督を引退していたんですが、「私にはまだ世界に伝えなければいけないことがある」ということで復帰して作った作品です。
シングルマザーと、行政にないがしろにされているご年配の方が手を取り合って、貧しい者同士、互いを思いやりながら交流を深めていくという内容です。
この作品を見たあと、私はケン・ローチ氏から「お前は社会に対して何が出来る?」というバトンを渡された気がしたのです。
ただ、自分のバックボーンを考えたとき、良くも悪くも何もなかったんです。
例えば自分の生い立ちにコンプレックスがあったりすると、そういう問題を世の中からなくしたい、という動機になりやすいと思うんです。
そういう動機が私にはありませんでした。
ただ、「生まれが選べない」ことで生じうる問題はあることに気が付きました。
全国で3万人くらいの子どもが親元を離れて児童養護施設で暮らしているということ、そして子どもの貧困が深刻であるというデータを見て、「日本にもこういう問題があるんだ」ということに気づきました。
そして、美容室の会社ではこういう社会問題を解決することは難しいと思い、一度はNPO団体を立ち上げることを考えました。
ただ、NPO団体を立ち上げようと色々と調べている中で、CSRという言葉に出会い、会社でも社会貢献活動ができるんだ、ということを知りました。
2016年当時、SDGs朝活勉強会という勉強会が銀座で朝7時20分からやっている団体があり、参加してみることにしました。
CSR検定3級を取るということ、SDGsを勉強してみるということが私がサステナブルに関心を持つきっかけとなりました。
その後、他の共同代表にもCSR検定を受けてもらいました。
ロンドの中では石田さんが最初にサステナビリティに関心を持たれたのですね
石田さん:そうなりますね。
共同代表の6人は分業をしておりまして、みんなにそれぞれ役割があります。
とにかく「美容師が好きだ」という代表は、技術を追及することに特化し、社内のアカデミーを運営していたり、技術カリキュラムを作ったり、最新技術の動画を作ったりしています。
お酒が強くて会食が好きな担当は、メーカーディーラー担当をしたり、経営セミナーを担当したりしてます。
数字が得意な共同代表は財務、経理、銀行周りや予算を担当。
内面の教育が好きな共同代表は社内の人材教育とアイラッシュ部門を統括。
海外が好きだという担当は、5年前にジャカルタに移住をして、海外部門をやっています。
私は、サスティナブルブランディングやディレクション、あとはweb部門の統括や美容室の要であるビジュアルブランディングを担当しています。
ビジネスとサステナブル
最近は多くのサステナブルな商品やサービスが登場しています。この現状について、石田さん自身はどう感じますか?
石田さん:ソーシャルビジネスやサステナブルビジネスは、マネタイズするのが難しいというのもそうですが、ビジネスをするということはすなわちエネルギーを使うということなので、「これは本当に気候変動対策になるのか?」と思ったりすることはあります。
例えばEV車は、生産時に排出されるCO2量はガソリン車よりも多いため、ある程度走行してようやくガソリン車と環境負荷が逆転します。
しかしバッテリーは消耗品なので、約16万km*走ったあたりで交換が必要になります。
つまり、バッテリーを買い換えるまでの間だけガソリン車よりもエコ、ということになってしまいます。
あとEV車に乗るということは電力を使うということなので、電力についても考える必要があります。
化石燃料を燃やして作られた電気でEVを走らせていても意味がありませんから。
エシカルファッションにしてもそうです。
環境に配慮された素材の洋服を買っても、1回着て終わりでは意味がないわけです。
サステナブルなビジネスをやって売上が上がるかどうかより、一番大切なのは「社会課題が解決されること」ですから。
サステナブルが普及したけど気候変動は止まってない、では元も子もありません。
ただ一方で、現在はSDGsを広げているフェーズですから、あまりにも「グリーンウォッシュ」の精査が厳しすぎると、今度は普及しづらくなります。
個人的にNGO団体がサステナビリティに関するスペシャリストだと思っているので、信頼できるNGO団体に寄付するのが一番なのかな、と考えてしまうこともあります。
石田ベジマップについて
石田さん個人のインスタアカウントで「石田ベジマップ」というハッシュタグを付けてヴィーガンのお店を紹介されていますね。
石田さん:インスタでもヴィーガン系のお店は多くの人が発信されていますが、美容室業界など、私にしかリーチできない層もいると思うので、発信をしています。
東京で暮らし、東京で働くヴィーガンの男性経営者はどこにご飯を食べにいくのか、という点に興味を持っていただければと思っています。
キャプションにはすべて「環境問題」についてのメッセージを記載するようにしています。
例えば畜産は環境負荷が大きいこと、再エネが地球環境に良いこと、環境問題についておすすめの本などなど。
そうすることで、写真を見ればお店について知ることもできるし、キャプションを見ればヴィーガンを実践することにより社会にどのような良い影響を作れるかということも知ることが出来るかなと。
ただ最近は、インスタ映えとか、常に情報をインプットし続けることにも疲弊してしまって、真っ白の画像とかを投稿したりすることがあります。
投稿におけるミニマリズムを突き詰めたら真っ白の画像になるのかなと。
昨年LUSHさんもInstagramを停止しましたよね。(※)
インターネットやSNSが普及したことで、世界では1日にどれだけの情報が生まれているのか、そしてその情報はどれだけのエネルギーを使って生まれたのか、と考えたら複雑な気持ちになります。
スタッフの投稿にリアクションするときに利用するのがメインです。
例えばアシスタントが練習しているストーリーなどに対してコメントをつけたりしています。
それ以外は、基本的にSNSは見ないようにしています。
ですから、LINEやInstagramなどスマホ通知はすべて切っています(笑)
今後の展望
今後の企業としての展望があれば教えてください。
石田さん:大きな目標としては、「面白いお手本になりたい」と思っています。
正しいこと、まっとうなこと、ばかりだとスタッフたちにちょっと重く感じさせてしまうと思うので、ユーモアのある会社風土を作りながら、社会に良いことをしていく。
「ロンドって楽しそうだよね。」
「でも良いこともしているよね。」
と思ってもらいたいです。
私個人としても、会社としても、そういう存在でありたいという風に考えています。
あとプロジェクト単位で言えば、すでに良い物は揃っているので、量り売りの販売量を増やしたり、再生可能エネルギーの店舗を増やす、サステナブルな内装の店舗数を増やす、といったように今やっていることを広げていくこと、継続していくことです。
そして自社だけでなく、業界全体に広げていくことは常に念頭に置いてやっていきいたいです。
美容室業界全体で1兆5000億円の市場と言われていますから、この市場全体が変われば非常に大きなインパクトになると思っています。
あとは、最終的には美容室業界で年商1位になる、ということは起業前から決めていた目標です。
だいたい300億くらいで達成できます。
ですから、300店舗3000人くらいには伸ばしたいです。
あと13年くらいで達成したいと考えています。
沢山お金を稼ぎたいというよりも、一人でも多く「物心両面の幸福の追及」ができる美容師を増やしたい、という点が大義です。
インタビューを終えて
以上がLondの代表取締役である石田さんのインタビューでした。
インタビューを通して、Londが業界のトップランナーへと急成長しているということは、業界全体にポジティブな影響をもたらしうるという点において、幸運なことだと感じました。
というのも、美容室業界どころか、あらゆる業界でサステナブルに対して及び腰な企業はまだまだ沢山あるからです。
例えば脱炭素にしろプラスチック削減にしろ、これまでの資本主義のルールで戦ってきた企業にとって、「サステナビリティは成長の足かせ」というイメージを持たれがちです。
ただ実際には、Londのように、事業とサステナビリティを両立しつつ、着実に成長し続けている企業もあるわけです。
Londが美容室業界でトップになることができれば、あらゆる業界が抱いているサステナビリティに対するネガティブなイメージを払拭することにも繋がります。
「買い物は投票」という言葉がありますが、美容室を選ぶこともまた投票です。
Londのような美容室が成長し続ければ、他の美容室も「自分たちもサステナビリティを取り入れなければ」という意識改革に繋がるはずです。
皆さんもぜひ美容室を選ぶ際には、Londを選びませんか?
そして持続可能な社会の実現に一票を投じましょう!
コメント
コメント一覧 (2件)
いつもInstagram拝見させて頂いてます!ありがとうございます
素敵なsaronさんですね!
私も美容室を一人で経営しています。色んな方の行いを少しずつ真似していきたいとやれる事からやってきます。
美容室経営には疑問ばかりありながらなので人にも環境にも優しくなりたいです。
いつも為になる情報ありがとうございます!
高橋三千さん
こちらこそ、いつもご覧頂きありがとうございます。
とっても素敵ですよねー、本気で問題を解決しようという意思が伝わってきました!
三千さんも美容室を経営されているのですね。
やれることからやっていく、これが何より大切だと思います。
私たちも精進していかなければ、と思うばかりです。
これからも宜しくお願い致します!