SDGsや脱炭素の認知が拡大するにつれ、「オーガニック」という言葉を聞く機会が増えました。
ただ、オーガニックをうたう商品が増えたと感じると同時に、その基準があいまいなまま市場が拡大していくことへの危惧もあります。
なぜなら、「農薬を使っていません」と言われても、消費者にはそれを確かめるすべがないからです。
食品の場合は有機JASという基準はありますが、繊維や化粧品などのオーガニック商品は実質的に無法地帯です。
つまり、原料のうちたった1%だけオーガニック成分が含まれているだけでもオーガニックが名乗れてしまう状況なのです。
そんな混とんとする日本のオーガニック市場において、サステナビリティに本気で取り組み、世界基準でオーガニック商品を展開している日本企業があります。
それが、寝具ブランドのSaFoです。
SaFoはどのようにサステナビリティと向き合っているのか?
なぜSaFoは世界基準といえるのか?
今回はSaFoの代表である山岡さんと、マネージャーの有馬さんからお話を伺いました。
ブランド誕生の経緯
——SaFoというブランドはどういう経緯で誕生したのですか?
山岡さん:当社は株式会社ハートという会社名で、私の父親が創業した会社です。
私が5~6歳のときに、喘息からくる熱性けいれんに悩まされていて、1週間に1回くらい救急車で運ばれていました。
私が過去に経験したようなことを経験している子どもたちが眠れる布団をつくりたい、というところが当社がオーガニック事業をスタートするきっかけとなりました。
今でこそネット通販の取り扱いが増えましたが、昔から全国の生協さんなどで取り扱って頂いております。
生協さんは環境問題やアレルギー、アトピー、オーガニックなどが根っこにあるため、当社と同じ想いを持っていると感じています。
そして15~16年前より日本製の布団として海外でも展開するようになったのですが、オリジナルのブランドがないと、なかなか広がっていきづらいなと感じていたため、2020年より「SaFo」というブランドを立ち上げました。
SaFoという名前は、日本語の「行儀”作法”」が由来です。
オーガニックというものにも一定のルールがあるように、行儀作法に従って生活を送ることで気持ち良いライフスタイルを送ることができる、という意味がブランド名に込められています。
また、SaFoのブランドを立ち上げる際には脱プラスチックなども考慮し、商品パッケージにもこだわりました。
弊社工場で布団を作る工程で出るオーガニックコットン生地のハギレ、本来であれば破棄されてしまう半端な生地を、寝具のパッケージとしてアップサイクル利用しています。
タオルなどの小さいものは、プラスチックのパッケージから紙製パッケージに切り替えました。
その紙製パッケージも今後は、工房で出るハギレを使えないか検討しています。
SaFoとSDGs
——SDGsという言葉を聞く機会は増えていますが、サステナブルな商品を扱う企業として、需要が高まっている実感はありますか?
山岡さん:生協さんがやってきたことが、まさにSDGsに該当するなとも感じています。
環境が汚れるような排水を流さないとか、ゴミを出さないとか、人の身体に悪影響が出るようなものを使わないとか。
今でこそ脱プラというキーワードが重要になっていますが、昔は「森林伐採」が大きなテーマでした。
生協さんはそのときも割り箸を減らしたり木材をつかった製品をむやみに大量生産しないとか、ということをやっていました。
SDGsの目標をひとつひとつみていくと、全部生協さんがやってきたことだなと感じます。
——オーガニック商品に対する需要はどうでしょう?
山岡さん:今の10代、20代の方はファストファッションとか100均など、なんでも安くモノを手に入れられる世代です。
1000円とか2000円でオシャレな洋服が買えたりします。
そういう安価な商品に慣れていると、オーガニックのような商品は手を出しづらい印象はあったと思います。
ただ、SDGsなどの認知度が高まったことで、10代や20代でも私たちの商品を見てくれている人は少しずつ増えてきたなという印象があります。
オーガニックのボリューム層
——貴社が扱うオーガニック商品を買う方は、主にどのような世代の人がボリュームゾーンになりますか?
山岡さん:オーガニック商品を選ぶ人が多いのは「お母さん」世代です。
20代までは美味しいもの食べて、綺麗な服を着て、色々なところでショッピングをして…というのが最大の関心事だと思います。
ただ、子どもが生まれると
「この子にこの商品を使っていいの?」「これを食べさせてもいいの?」
ということが気になり始めるんです。
そこから、生協さんに入ったり、ネットで調べてより良い商品を探す、という方が増えます。
なので、30代~40代のお母さん世代がボリュームゾーンです。
そこに、SDGsなどの認知度の高まりとともに10代や20代なども加わってきている、という印象です。
有馬さん:出産祝いでオーガニックなギフトを選ぶ方も増えています。
また、出産を機に寝具を一新するため、オーガニック商品を一式購入される方もいらっしゃいます。
赤ちゃんが生まれると、見た目より内容を重視し始める方は多いと思います。
コットン生産について
——貴社が取り扱うコットンは国産ですか?
山岡さん:海外産のコットンです。
10年以上前から国内のコットンを採用することにチャレンジしていますが、日本国内で認証を取得できるオーガニックコットンを生産するのは非常に難しいです。
「自分の洋服を数着作る」という個人レベルの話ならつくることができますが、工業レベルで寝具の大きさのものになってくると、ある程度の量が必要になってくるので、大きな畑のある海外で栽培されたコットンを選ばざるを得なくなります。
また、国によってコットンの種類が異なってきます。
日本で栽培されるコットンは繊維の長さが短いので、大きな製品をつくることができません。
アメリカで育つコットン、インドで育つコットンも、それぞれ特徴が異なります。
コットンに限らず、オーガニックなものを全て国内でまかなうというのは、日本の狭い国土や気候を考えれば非常に難しいです。
例えばオーガニック認証のある大豆は、おそらく海外産が9割以上になると思います。
オーガニックで、なおかつ国産の大豆から作られた醤油をつくったら、おそらく1本で1万円とか2万円くらいの値段になってしまう可能性があります。
それに、オーガニックを求める消費者が一定数いないと、農家さんも生産することができません。
消費者の賃金が上がらず、安い商品ばかりが売れる世の中では、オーガニックは普及しづらいです。
これがヨーロッパとかになると、また日本とは全然状況が異なります。
例えばドイツは、オーガニックのニンジンと普通のニンジンが同じ価格だったりします。
ジャガイモとかになると、むしろオーガニックの方が安かったりします。
これは、ドイツが100年かけて築き上げてきた国民の意識の賜物です。
国土を守るという意識の中に「オーガニック」が含まれていたりします。
健康な子供を育てていくということが、国を守ることに繋がる、という意識が出来上がっているのです。
薬品が入ったものを国民に食べさせない、使わせない、という意識が国全体にあります。
ヨーロッパにはこういう土壌があるからこそ、オーガニックが普及しているんだと思います。
日本も、国家レベルでオーガニックに対して向き合わないと、急には普及していかないのかなと思います。
有馬さん:ただ最近は日本でもオーガニックへの関心は高まりつつあるなと感じます。
世代問わず食の安全に対する意識は広がっていて、スーパーなんかでも、商品を手に取ってパッケージの裏側を見てみる人も多いです。
化粧品なんかでもオーガニックの認証を取得している商品は増えつつあります。
具体的な認証の基準は分からなくても、漠然と「認証のある商品の方が肌に優しいんだな」という意識の人は増えている気がします。
また、手前味噌ですが、当社の商品はオーガニックであるというだけでなく、モノとして良い商品だという自負があります。
手触りが良かったり、耐久性があったり。
実際、社員も当社の布団を何十年と使ったりしています。
そして長く使い続けることができたら、結果的には環境にも良いですよね。
なので、オーガニックとかサステナブルに関心がない人でも、実際に触ってみて、使ってみて欲しいなという想いはあります。
コットンと社会問題
——コットンを取り巻く問題は、環境だけでなく、生産者の貧困や労働者の搾取といった問題もあると思います。貴社の扱うコットンは社会問題への配慮もあったりするのでしょうか?
山岡さん:当社のコットンはGOTS認証を取得しています。
そしてGOTSの認証基準には、オーガニックであるというだけでなく、すべてのサプライチェーンにおける労働環境なども検査したりします。
GOTSというグローバルな基準が出来る前には、日本には日本の、アメリカにはアメリカ独自の基準があったりしました。
例えばひと昔前には、生産者の写真を載せて、「私が育てたコットンだから、私が証明です」という風に信頼性を担保していた時代もありました。
でも近所の知り合いであればその生産者のことを信頼できるかもしれませんが、遠くに住んでいて知り合いでもない人にとっては信頼性にはなりにくいですよね。
でも、これだけグローバル化した時代では、各国で独自の基準を採用していたら、結局その基準の信頼性が担保できなくなってしてしまいます。
だからこそ、どの国の住んでいても、どの国の商品を買う場合でも、信頼できる世界的に統一された基準をつくったGOTSの役割というのは大きいと思います。
認証について
——貴社のオーガニック商品は徹底して認証を取得しているように思います。ただオーガニック商品を取り扱う企業すべてが認証を取得しているわけではないと思います。認証を取得するのは難しいのでしょうか?
有馬さん:認証の基準をクリアするというのはとても大変です。
提携している各工場にいって指導をしなければ検査が通らないんです。
山岡さん:労働環境とかを審査することになると、中には嫌がる工場さんもあったりします。
有馬さん:ですから、認証機関の審査に納得してもらえるところにしか頼めないという難しさはあります。
山岡さん:一般の商品を作るときとオーガニックの商品を作るときは、製造を分ける必要があります。
オーガニックのものを作るときは機械の中もすべて清掃しなければならなかったり、身体も清潔に保たなければならなかったりと、スタッフの人の教育も必要になります。
そういう工程が煩わしい工場とかは、非常に残念なことではありますが、オーガニックの認証グループからは外れていってしまうことになります。
ただ最近では工場でも世代交代が進んでいて、製造の現場には30~40代の若い人たちも増えています。
そういう人たちの中では、オーガニックの基準なんかも「やって当然」だという意識を持たれている方も多いので、サプライチェーンも変化しつつあるな、というのは実感しています。
もちろん若い人たちばかりではなく、ご年配の方でもサステナビリティに対して真剣に取り組んでいる人はいらっしゃいます。
ただ、最近は学校教育でもサステナビリティが取り入れられたりしているので、必然的に若い人の方がサステナビリティに対する理解が進んでいるというのはあると思います。
事業とサステナビリティの両立
——事業とサステナビリティを両立するうえで課題に感じていることはありますか?
山岡さん:それこそオーガニック認証を取得するということは、大量生産しづらくなるということなので、事業としての難しさは感じています。
ただ、ビジネスを追求するあまり大量生産をしようとするとサステナビリティが疎かになります。
20世紀という時代が、「大量生産をして豊かさを追求する」という時代でした。
ただ、SDGsなどが取り入れられたことで、セカンドハンドのものを大切にしたり、良い物を一点買って使い続ける、という傾向が強くなりました。
ここに目を向けず、20世紀と同じように化学薬品を大量に使い、大量生産・大量消費をしているようなところは、ESG投資などの対象から自然と外れていくのかなと思います。
あるいは、SNSを使えば一瞬にして企業に対するイメージが左右される時代ですから、消費者が一致団結して、SDGsに無関心な企業の商品を買わないようにしていく、ということも今後は増えてくるのではないかなと。
企業の責任はこれまで以上に重くなってきていると思います。
ですから、事業とサステナビリティを両立させることは難しいことは事実ですが、両立させなければ成り立たない社会になっているのかなと思います。
SaFoの展望
——貴社の今後の展望を教えてください。
山岡さん:布団という伝統、あるいはものづくりの丁寧さとか、礼儀作法とか、日本の文化を世界に発信していきたいという想いから「SaFo」という名前をつけました。
「みんなが安心して眠れる布団をつくりたい」
というところが株式会社ハートのスタートでもあるので、SaFoこれからやっていくことも本質的には変わりません。
世界中の人が眠れる布団をつくっていく、というのがSaFoが目指しているところです。
インタビューを終えて
最近になってようやく日本でもサステナブルな商品が普及し始めてきましたが、まだまだ「トレーサビリティ」は不十分です。
仮にその商品が環境に配慮されていたとしても、生産者や労働者が搾取されて作られた商品だとしたら、それは真にサステナブルとは言えません。
そして、サステナビリティに対する配慮がサプライチェーンまで行き届いているかどうかは、パッケージを見ただけでは消費者には分かりません。
そういった商品の製造工程すべての信頼性を担保するものが認証ラベルなのです。
認証を取得していなくても商品が売れるような、「言ったもの勝ち」みたいな状況が常態化してしまうと、サステナブルなふりをして実態が伴っていない、いわゆるグリーンウォッシュな商品が市場にあふれることに繋がります。
欧米では認証ラベルをチェックして買い物をする習慣が根付いており、企業側もそれを理解しているからこそ、認証の取得を徹底しています。
日本でグリーンウォッシュを排除していくためには、やはり「認証」の重要性を啓蒙し、消費者の購買行動を変えていく必要がありそうです。
そして同時に、SaFoのように世界基準でものづくりをしている企業の商品を買い、サステナビリティに本気で取り組む企業を支持していくことが重要だと感じました。
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