オーガニックコットンとは、化学肥料や農薬を使用せず、有機栽培で生産された綿のことを指します。
綿花の栽培は近年、環境負荷や生産者の貧困などサステナビリティの観点から問題視されています。
そして近年、環境負荷を低減したり、生産者の収益性を高めるアプローチとしてオーガニックコットンが注目されています。

オーガニックコットンのメリット
コットンは地球上で最も広く使用されている天然繊維です。
全繊維製品の約半分は綿で作られており、綿の生産は、世界中で 2 億 5,000 万人以上の人々の収入源となり、発展途上国では全労働力の約 7% を雇用しています。1
綿花は世界中で広く普及している農作物の一つですが、現在の綿花生産方法は、環境的にも社会的にも持続可能とは言えません。
水の使用量が少ない
ジーンズ1本分の綿を生産するには1万リットル以上の水が必要と言われています。
これは1人分の飲み水の10年分に相当する量です。

カザフスタンとウズベキスタンにまたがる「アラル海」では1960年頃から綿花の栽培などで灌漑農業が盛んになった結果、半世紀で10分の1まで干上がってしまいました。
これは20世紀最大の環境破壊とも言われています。
水の使用量の問題は、アラル海にとどまりません。
この水の使用量を維持したまま今後人口が増加すると、深刻な水不足に陥る可能性があります。
水の需要は2000年と2050年で比較して、全体で55%も増加が見込まれています。
2050年には世界人口の40%以上が深刻な水不足に見舞われる可能性もあると言われています。
そうすると、水をめぐる争いが発生する可能性があります。
すでに特定の地域では水をめぐる紛争が起こっています。

出典:水資源問題の原因
一方、Textile Exchangeの調査によると、従来の綿花栽培では、Tシャツ1枚あたり平均 2,700リットルの水が必要なのに対し、オーガニックコットン栽培では、Tシャツ1枚あたり平均 1,100 リットルの水しか必要とせず、水の使用量を半分以下に削減できます。
コットンの栽培で使用する水はブルーウォーター(河・湖の水)とグリーンウォーター(雨水・土壌に蓄えられた水)の2種類があり、農薬を使用していない健全な土壌は水の吸収力と保持力が優れているため、ブルーウォーターに頼る必要がありません。
オーガニックコットンの栽培の95%がグリーンウォーターで生産されると言われており、そのため水の使用量が少なくて済むのです。
今後の人口増加を考えると、生活の必需品である洋服に必要な水の使用量は少ない方がいいはずです。
CO2排出量が少ない

通常のコットンは栽培するときにかなりの量の化学肥料や農薬が使用されます。
世界の耕地面積のたった2.4%に過ぎない綿花畑において、世界の農薬の6%、殺虫剤の16%が綿花の栽培で使用されています。2
農薬をまいた農地などから発生する亜酸化窒素ガスは、二酸化炭素の310倍の温室効果3があると言われています。
さらに農薬や化学肥料は土壌の微生物を殺してしまい、土地がやせ細り、生物多様性を損ないます。
一方のオーガニックコットンは農薬は化学肥料を使用せず、殺虫剤の代わりにてんとう虫などの益虫を使ったり、ニンキクや唐辛子など刺激臭のある植物を植えたりして、害虫対策をします。
また、収穫の際には、通常のコットンのように枯葉剤を散布したり機械を使って刈り取ったりせず、ひとつづつ丁寧に手摘みで収穫をしていきます。
農薬にも機械にも頼らないので、温室効果ガスの排出量は通常のコットンに比べて46%も少ない4です。
そして農薬を使用していない肥沃な土地は、むしろ二酸化炭素を吸収する役割を持ちます。
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生産者の健康被害が小さい
農薬がまかれると、被害を受けるのは地球環境だけではありません。
当然、生産者の健康にも被害が及びます。
世界保健機関(WHO)と、国際労働機関(ILO)によると、世界では農薬による中毒が年間数百万件という規模で起こっており、年間2万~4万人もの死者を出しているそうです。
アメリカにおける綿生産の場合、国内に登録されている中でも最も毒性の強い薬品の一つであるアルディカーブや、発ガン物質と見なされているアセフェートが害虫駆除剤として広く使われています。
さらに途上国の場合だと、生産者たちは農薬に対する知識が乏しいため、農薬散布用の保護服やマスクなどは使用しません。
そのため、農薬による皮膚病や呼吸器系等への健康被害が懸念されます。
一方、農薬を使用していないオーガニックコットンは、労働者の健康を守ることにも繋がります。
水質汚染の解消
世界の水質汚染のうち20%がファッション産業が原因になっていると言われています。
しかし2011年の「ウォーター・フットプリント」の報告書によると、オーガニックコットンは栽培時に農薬や肥料などの合成化学物質を使わないため、水質汚染を98%も抑えることができるそうな。
貧困の解消
2019年で世界のコットンの62%を生産しているインドでは、綿花農家の大半が貧困状態にあります。
すでに貧しい人たちがコットン栽培を始めることが多いため、工業的農業に必要となる高価な肥料・殺虫剤・遺伝子組み換え種子を買う資金がなく、借金からスタートするのです。
インドの農家の平均年収は、1haあたり約1,315米ドルであるのに対し、綿花農家の平均年収は1haあたり約995米ドルと、約300米ドル程度の差があります。
1995年以来、27万人以上のインドの綿花農家が自殺しており、貧困との関連性が指摘されています。
一方のオーガニックコットンは、インドの約90%の綿作で使用されている遺伝子組換え種子や化学肥料や農薬が使われないため、生産コストを最大50%削減することができます。
オーガニックの種子は遺伝子組換え種子とは違い自家採取が可能なため、種子に投資や借金の必要がありません。
さらに、農薬や殺虫剤を購入する費用を節約することができます。
児童労働の排除
綿花は貧困地域で栽培されることが多いため、子どもが労働に駆り出される場合が多いです。
インド国内の綿花関連産業で約50万人が児童労働をしていると推定されています。
しかしオーガニックコットンの場合、認証機関から児童労働がないかの審査を受ける必要があります。

オーガニックコットンのデメリット
通常のコットンより高い
オーガニックコットンは農薬を使用しなかったり、機械作業を減らしたりしているため、通常のコットンのように大量生産することが出来ません。
大量生産ができなければ、やはり市場の原理としてどうしてもお値段は高くなる傾向があります。
商品が少ない
オーガニックコットンが占める割合は、全コットンのうち1%にも満たないと言われています。
認証を取得しているオーガニックコットンとなると、さらにその数は少なくなります。
買える洋服の選択肢が少ないという点はデメリットと言えるでしょう。
最も環境負荷が低いわけではない
コットンと比較すればオーガニックコットンの方が環境負荷は小さいです。
ただ、オーガニックコットンがあらゆるテキスタイルの中で最も環境負荷が低いかと言われると、決してそんなことはありません。
水の使用量で言えばリネンの方がさらに少なく済みますし、リヨセルの耕地面積はコットンの10分の1で済みます。
オーガニックコットンの定義
有機栽培のコットンが「オーガニックコットン」と認められるには
- 2~3年以上農薬を使用していない農地で栽培すること
- 労働者の健康に配慮していること
- 児童労働を禁止していること
などの条件をクリアする必要があります。
「など」という点がミソで、この定義は「認証」によって異なります。
有機栽培の食品であれば必ず「有機JAS」の認証ラベルがあるので一目で分かります。
しかし有機JASは食品にしか適用されません。
そうは言っても洋服を見て「これはオーガニックだ」と判別することは不可能です。
仮に使用されているのがオーガニックコットンであっても、洋服の品質表示のラベルには「綿〇%」と記載されます。
さらに言うと、仮にオーガニックコットンが本当に使用されていたとしても、コットンのうちどれくらいオーガニックコットンが使用されているかが分かりません。
例えばコットンのうち5%がオーガニックで、残り95%が農薬が使用されたコットンだった、なんてこともあり得るわけです。
じゃあ消費者はどうやってオーガニックコットンの洋服を選べばいいのでしょう?
実はオーガニックコットンを見分けるためのラベルがあります。
それが「GOTS認証」と「OCS認証」という2つの認証です。
メーカーがこれらの認証を受けるためには、認証機関から畑をチェックされ、どのように農地が管理されているか、どのように栽培されているかなどを審査されます。
つまり、これらの認証ラベルがある商品は、第三者機関の審査を合格したオーガニックコットンが使用されている証となります。
GOTS認証

オーガニック繊維について、生産から製造・販売まで、すべての工程の取り扱いについて定めた世界基準をThe Global Organic Textile Standard(GOTS)と言います。
オーガニック認定を受けられる原料の使用量は70%~100%と、OCSよりも厳しい水準に設定されています。
ただし、オーガニックコットンは普及している量が少ないため、商品も高額であるケースが多いです。
GOTS認証は認証を受けるハードルが高い分、オーガニックコットンの普及という部分ではOCS認証に分がありますが、認証に対する消費者からの信頼性に繋がっています。

OCS認証

原料から最終製品までの履歴を追跡し、その商品がオーガニック繊維製品であることを証明するマーク。
5%以上のオーガニック原料を含む製品に該当する「OCS Blended」、95%以上のオーガニック原料を含む製品に該当する「OCS 100」の2種類があります。
同じくオーガニックコットンに関する認証のGOTSよりも求められるオーガニック原料のハードルが低いため、リーズナブルな価格設定の場合が多い。
また、認証制度の信頼性という部分ではGOTS認証に分があります、OCS認証は認証のハードルが低い分、オーガニックコットンの普及に繋がります。
遺伝子組み換え
「普通のコットン」と言ったら、それは遺伝子組み換えコットン(GM綿)の事を指します。
綿花生産のTOP3である中国、インド、米国の綿花全体の約90%をGM綿が占めているからです。5
コットンと遺伝子組み換えについては以下の記事で詳しく解説しているのでご参照ください。

オーガニックを採用しているブランド
オーガニックコットンを見分けるには認証ラベルを探しましょう、ということをお伝えしました。
ただ実際には、認証を取得している洋服はまだまだ少ないです。
正直に言って、フラッと立ち寄ったお店で認証ラベルを見つけられる確率はかなり低いです。
じゃあ結局どうすればいいのよ、っていう話ですが、個人的には環境配慮への意識が高いブランドの中から選ぶことをオススメします。
いわゆるエシカルファッションとかサステナブルファッションにカテゴライズされるブランドです。
環境配慮への意識が高いブランドは、オーガニックコットンを使用することの重要性を分かっているので、コットン製品のオーガニック率はやっぱり高いです。
とはいえ、最近は環境意識の高い消費者に商品を買ってもらうため、環境に配慮をしているフリをしているグリーンウォッシュ系のブランドも中にはあるので、見極める必要はあるでしょう。
そこで、日々企業のサステナビリティを調査している筆者がオススメするブランドをピックアップさせていただきます。
パタゴニア

パタゴニアはオーガニックコットンを採用するブランドのパイオニア的存在です。
パタゴニアは1996年以降、綿素材の商品にはすべて無農薬のオーガニックコットンを使用しています。
ナイキがオーガニックコットンの導入を決めたのも、パタゴニアのサプライチェーンを視察した影響であると言われています。
また、パタゴニアは1985年以降、自然環境の保護・回復のために売り上げの1%を利用することを誓約し、これまで8900万ドル相当の寄付を草の根環境団体に行っています。
エコアルフ

すべてのアイテムを再生素材や環境負荷の低い天然素材のみで作っている、スペインのサステナブルファッションブランド「ECOALF(エコアルフ)」。
ブランド自らが海のゴミを収集し、ペットボトル、タイヤ、魚網などを独自の技術でリサイクルして生地を開発し、ウェアをつくっています。
「服を売るために環境にも配慮する」という発想のブランドが多い中、ECOALFは「地球環境を守るために服を売る」という、斬新でサステナブルな発想が特徴です。
エコアルフ財団はこれまでに500トン以上のゴミを地中海の海底から回収しています。
エコアルフはオーガニックコットンはもちろんのこと、さらに環境負荷の低いリサイクルコットンも採用しています。
ヌーディージーンズ

ジーンズブランドとして初めて、全デニム製品のオーガニックコットン100%化に踏み切ったのがヌーディージーンズです。
創業以来、オーガニックコットンにこだわり続け、2012年にデニムすべてをオーガニックコットン製にするという目標を達成、2017年にはデニム以外の商品ラインでもこの目標を達成しました。
また、ヌーディーのすべてのジーンズは、購入時期や購入場所を問わず、永久無料リペアの保証が付いています。
オーガニックコットンの洋服を新たに買うのもいいですが、買ったものを長く続けることはもっとサステナブルです。
VEJA

ブランド名のVejaはポルトガル語で『見る』という意味で、「生産されたシューズの向こう側には何があるのかを”見る”」という意味が込められています。
オーガニックコットン、リサイクル素材、バイオ由来のヴィーガンレザーなど、すべてのモデルでサステナブルな素材を採用しています。
また、ヴェジャは素材の調達方法にもこだわり、介業者を介することなく生産者組合と直接やり取りする「フェアトレード」を実践しています。
プレオーガニックコットン
オーガニックコットンが環境にも良いし、生産者の健康にも良いことは多くの人が分かっています。
しかし、貧しい農家の人にとって、2~3年農薬を使ってはいけないというのはとてもハードルが高いのです。
2~3年は農薬を使うなと言われても、綿の栽培を続けなければ生活ができませんから。
そんな貧しい農家の人たちに用意されているのが「プレオーガニックコットンプログラム(POG)」です。
プレオーガニックコットンプログラムは、オーガニックコットンに認定される前に収穫された無農薬で育てられたコットンのことです。
無農薬栽培を始めてから3年未満の「移行期間綿」をPOGが買い取ることで、生産者の移行リスクを下げる仕組みです。
最後に
オーガニックコットンに移行すれば土地面積あたりの生産量が低下するという見解も多いですが、個人的には低下しても問題ないのでは?とすら思っています。
農薬や化学肥料が必要ないとは言いません。むしろ人口増加とタンパク質の需要と供給を考えれば、食糧供給においてこれらは不可欠です。
ただ、繊維の場合はどうでしょうか?人口増加に対応できず、一人ひとりが洋服が着られない未来が待っているか?と言われると、そんな未来は少し想像できません。
まず第一に、天然繊維だけでなく化学繊維という選択肢がありますし、リサイクル技術も進化し続けています。
同じ天然繊維でも、リネンやヘンプのような麻や、ユーカリやブナの木材パルプから生産されるテンセル・リヨセルは、水の消費量も、必要な土地面積も、綿花よりはるかに環境負荷が小さくて済みます。
そして何より、アフリカでは廃棄される古着の山が築かれているのが現状です。人口増加に対応できないどころか、むしろ過剰に作りすぎている可能性すらあります。
多少生産量を落としてでも、現在コットン畑として使用されている土地くらいは、生態系を保全する形で栽培していくのも悪い考えではないのではないか、と個人的には考えています。
後世に豊かな地球を残すため、今を生きる者の責任として、積極的にオーガニックコットンを選んでいきたいものです。
関連リンク
- 日本オーガニックコットン協会
- Global Organic Textile Standard
- Textile Exchange
- コットンって環境に悪い?サステナブルファッション視点でのコットンの生産と利用
- インド:綿花畑のヤダマと家事手伝いのハナとの間
- インド:綿花生産者が直面する貧困の背景には?
- プレオーガニックコットン
文献
- https://www.worldwildlife.org/industries/cotton ↩︎
- https://ejfoundation.org/news-media/the-casualties-of-cotton ↩︎
- https://www.jsps.go.jp/file/storage/general/j-jisedai/data/green/GS027_outline.pdf ↩︎
- https://www.soilassociation.org/media/11662/coolcotton.pdf ↩︎
- https://www.ethicalconsumer.org/fashion-clothing/ethics-cotton-production ↩︎
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