グローバルサウス(Global South)とは、冷戦終結以降の国際関係学や政治学、人類学、地理学、経済学など多岐にわたる領域で使用される概念です。
そして一般的には、経済的、政治的に開発途上であると見なされる国や地域を指します。
しかし、その定義は単に地理的な南方を指すものではなく、世界の中での構造的な不平等や力関係を象徴するものとも言えます。
グローバルサウスとは
グローバルサウスは、「南方」または「南部」という言葉が示す通り、南半球の国々や地域を一般的に指します。
ただし、これはグローバルサウスという言葉が持つひとつの側面でしかありません。
実際には、グローバルサウスは経済的、社会的、政治的な指標に基づいて分類され、中南米の新興国を指す場合が多いです。
「この国がグローバルサウス」といった明確な定義はありませんが、ニュースでグローバルサウスという言葉が用いられる場合には
- インド
- インドネシア
- ブラジル
- 南アフリカ
といった国々を指す場合が多いです。
この概念は、「開発途上国」、「第三世界」、「南部諸国」といった、過去の表現の置き換えとして提唱されました。
こうした古い用語は、冷戦時代のイデオロギー的対立や、工業化された「先進国」と「後進国」といった二項対立を生み出します。
これに対し、「グローバルサウス」の用語は、それらのイデオロギー的な枠組みを越え、現代のグローバル化の中での構造的な不平等や力関係に焦点を当てます。
歴史的背景
グローバルサウスという概念は、歴史的に見て帝国主義、植民地主義、資本主義といった力関係の中で形成されました。
こうしたアンバランスな力関係は、資源の配分、教育、健康、経済開発などの面でグローバルサウスの国々に負の影響をもたらしました。
たとえば、19世紀から20世紀初頭の植民地時代、多くのグローバルサウスの国々は欧米の列強によって統治され、その結果、大量の資源がこれらの地域から奪われました。
この資源の流出は、これらの地域の経済開発を大幅に遅らせ、現在の格差を生み出す一因となりました。
さらに、この時代に制定された法律や政策は、しばしば地元の文化や社会構造を無視し、抑圧的であることが多く、これが現在の社会的、政治的問題の一部を生んでいます。
現在の課題
こうした歴史的背景から、グローバルサウスの国々はいま、さまざまな課題に直面しています。
経済格差
たとえば経済的な格差です。
しばしばグローバルサウスの国々は経済的に「開発途上」であると見なされ、その平均的な所得や生活水準は北半球の「先進国」よりも低い場合が多いです。
これは、教育、健康、インフラストラクチャーといった基本的な社会サービスの質とアクセス性に大きな影響を与えます。
気候変動
また、気候変動はグローバルサウスの国々に深刻な影響を与えています。
多くのグローバルサウスの地域は、気候変動による影響を最も直接的かつ強烈に受ける場所であり、それによって生じる自然災害、食糧生産の変動、感染症の拡大などに直面しています。
自然破壊
経済発展を遂げた工業国は、しばしば発展途上にある農業国の資源を収奪し、そして自然破壊を生み出してきました。
たとえば欧米の食品メーカーが安価で便利な植物油を必要とし、インドネシアやマレーシアから大量のパーム油を買い続けた結果、欧米の大企業は成長をし続け、インドネシアやマレーシアでは拡大し続けるアブラヤシ農園によって熱帯雨林が伐採され続けています。
注目されている背景
グローバルサウスという言葉は2022年ごろから日本のメディアで使用される頻度が高くなりました。
その背景には、2022年に発生したロシアのウクライナ侵攻が大きく影響しているものと推定されます。
冷戦終結後の世界を分類しようとするときには、これまでは
「資本主義と共産主義」「自由主義と全体主義」「欧米と中ロ」
といったように、二項対立で語られることが多かったように思います。
しかし、ロシアのウクライナ侵攻後、日本を含む欧米諸国は団結してロシアに制裁を加えることになりましたが、その隊列に加わらない国々が現れたのです。
それがまさに、インドやブラジル、インドネシアといった、いわゆるグローバルサウスと呼ばれる国々です。
中国や北朝鮮がロシアへの制裁に加わらないことは想定内でしたが、「おそらく自由主義陣営」と括られていた国々が、欧米諸国と歩調を合わせなかったことで、単純に世界を二種類で語ることができなくなってしまったのです。
だからこそ、便宜上グローバルサウスという言葉を用いらざるを得なくなったのだろうと思われます。
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