世界でいま最も重要なキーワードの一つが「持続可能性」、すなわちサステナビリティです。
サステナブルな文脈で言うと、今の人口増加に鑑みれば「水資源」は持続可能とは言えません。
そして、水資源の重要性がますます高まっている中で、バーチャルウォーターという概念が注目を集めています。
本記事では、バーチャルウォーターとは何か、その意義や影響、そして私たちがバーチャルウォーターについて考慮すべき理由について解説していきます。
人口増加と水不足
世界の総人口は2019年の77億人から、2030年には85億人、2050年には約97億3,000万人になると予測されています。
人口が増えるということは、すなわち水の需要が増えるということです。
経済協力開発機構(OECD)によると、2050年には、深刻な水不足に見舞われる河川流域の人口は、39億人(世界人口の40%以上)となる可能性もあると予想されています。
これに地球温暖化による気候変動が加われば、干ばつをはじめとして、水不足に拍車をかけることになります。
水が足りなくなれば、水の価格は上昇し、水を利用できる人とそうでない人の格差はさらに広がることになります。
そうなれば、水を独占する人や企業が現れても不思議ではありません。
世界の水の使用量
世界が水不足になると聞けば、次に考えるべきは「どこの水を抑えるべきか」です。
世界の水の使用量の内訳は、工業に2割、生活に1割、残り7割は農業です。
人類は、自宅で使う水なんかよりも、はるかに多くの水を農産物や畜産物を作るために使用しているのです。
しかし、食べ物をつくるために大量の水を使用している、という意識が希薄な人も多いかもしれません。
それは、食糧を自国で生産せず、輸入に頼ることがあるからです。
その意識を変えるために「バーチャルウォーター」という考え方が役に立ちます。
バーチャルウォーターとは?
バーチャルウォーター(仮想水)とは、食料を輸入している国において、もしその輸入食料を自国で生産するとしたら、どの程度の水が必要かを推定したものです。
ロンドン大学東洋アフリカ学科名誉教授のアンソニー・アラン氏がはじめて紹介した概念です。
要するに、輸入した農産物・畜産物を生産する際に使った水の量を、実際に自国では水は使用していないものの、自国で水をつかったと捉える考え方です。
似たような考え方として、東京大学生産技術研究所の沖教授は、輸入国側で生産したときに必要となる水の量を「間接水」、輸出国側で実際に投入された水の量を「直接水」と呼んで区別しました。
バーチャルウォーターの意義
なぜバーチャルウォーターや間接水・直接水のような考え方をする必要があるのでしょう?
それは、自国で生産しようが輸入しようが、食糧が生産されれば、紛れもなく地球上の水が使われているからです。
とりわけ日本は食料自給率が低く、圧倒的に食料を輸入に頼っており、食糧生産に多くの水が使用されているという意識が薄いかもしれません。
しかし、水というものは、人類みんなの循環資源であり、無関係な国は一つとしてありません。
ですから、バーチャルウォーターのような考え方が大切なのです。
では、農業の中でも、何にどれくらい水が使用されているのでしょう?
バーチャルウォーターの量
1kgのトウモロコシを生産するためには、1,800リットルの水が必要です。
一方、東京大学の沖大幹教授グループの研究によれば、鶏肉1キログラムに4500リットル、豚肉1キログラムに6000リットル、牛肉1キログラムには2万リットルの水が必要です。
牛や豚のエサとなる穀物を栽培するために大量の水が使われるのです。
身近な食べ物に置き換えると、牛丼1杯には2000リットル、ハンバーガー1個には1000リットルが必要です。
世界には水不足や飢餓で苦しむ人がいて、水が飲めれば、穀物が食べられれば救われる命もたくさんあります。
そんな人たちを横目に、悲しきかな、人類は貴重な水を惜しげもなく使用して作られた大量の穀物を、家畜に食べさせているのです。
バーチャルウォーター量(ℓ) | |
---|---|
牛肉 | 20,600 |
豚肉 | 5,900 |
鶏肉 | 4,500 |
パインアップル | 752 |
生クリーム | 711 |
そば | 667 |
米 | 555 |
牛乳 | 550 |
スイカ | 501 |
まとめ
水は地球上で循環するのものですが、必ずしもすべての地域で満遍なく循環するわけではないということは覚えておきたいものです。
ペットボトルの中に詰められて移動することもあれば、農作物に姿を変えて移動することもあるのです。
私たち人間はもとより、あらゆる生命が水に頼って生きています。
水が枯渇すれば、私たち人間に影響が出るのはもとより、生態系にも影響を及ぼす可能性があります。
すなわち、私たちが何を食べるかは、地球に豊かさをもたらすか、あるいは破壊をもたらすかの選択でもあります。
ぜひ今後は、あらゆる食べ物には水が使われているのだということを意識してみましょう。
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