アップサイクルとは、本来捨てられるはずだったものに、デザイン・アイデア・品質などの新たな価値を与え、より質の高い素材や製品に再生することを意味します。
例えば、サンドイッチ製造で発生し活用しきれないパン耳を原料にしてビールを作るのはアップサイクルです。
お金を出してまでパンの耳を買いたいという人はいませんが、ビールなら買いたいという人は多いですよね。
これはまさに、アップサイクルすることで新たな市場価値を生み出している事例です。
SDGsが注目される昨今、一度作った商品はただ廃棄するのではなく、資源を無駄なく上手に活用し、循環させることの重要性が認識されるようになっています。
そして循環経済を実現していくうえでも、アップサイクルは重要なカギを握っています。
しかしながら、ここまでアップサイクルの説明を聞いても、
「リサイクルとの違いがいまいち分からない」
「具体的な事例が知りたい」
といった方もいらっしゃるかもしれません。
というわけで、本記事ではアップサイクルについて詳しく解説をさせていただきます。
リサイクルとの違い
アップサイクルはなるべく作られた製品をそのまま生かして、新たな価値を持つ製品に生まれ変わらせることを言います。
一方リサイクルは、一度原料にまで戻して、新たな価値を生み出すかどうかを問わず、製品に再生することを言います。
例えばペットボトルを回収し、原料に戻し、また新たにペットボトルとして循環させる。
これはまさにリサイクルです。
元々ペットボトルだったものを、再びペットボトルとして作るわけですから、特別新たな価値は生み出されていません。
むしろ多くのリサイクル製品は、元の製品よりも品質が劣る場合が多いです。
同じものから同じものに生まれ変わるリサイクルを「水平リサイクル」と呼びます。
ダウンサイクルとの違い
アップサイクルの逆の意味として、ダウンサイクルというものもあります。
例えば着古したTシャツを切って、雑巾として活用する…これはダウンサイクルです。
一般的に言えばTシャツよりも雑巾の方が価値が低いですからね。
日本の現状
日本のリサイクル率は2019年時点で85%とかなり高い数値です。
しかしこの内訳をみてみると
- サーマルリサイクルが約60%
- マテリアルリサイクルが21%
- ケミカルリサイクルが3%
で、残りは単純焼却されるか埋め立てられます。
最も高いサーマルリサイクルというのは、廃棄物を焼却する際に発生する熱エネルギーを回収して利用することを指します。
ゴミを燃やして、発生するエネルギーを回収し、発電などに再利用されているのです。
つまり、日本の大部分を占めているリサイクルは、多くの人がイメージするような「モノからモノに生まれ変わる」ようなリサイクルではないということです。
世界が目指しているのは、一度生み出された商品はなるべく「廃棄させない」ことなので、やはり日本のリサイクルの現状には課題があると言わざるを得ません。
【関連記事】サーマルリサイクルとは?メリットと問題点について解説
メリット
従来までの経済システムは
「資源を消費→モノを生産→消費者に販売→ゴミとして廃棄」
といったように、廃棄に向かって一直線のリニアエコノミー(直線型経済)と呼ばれています。
しかし人類は増加し続けていること、海洋プラスチックゴミが増え続けていること、石油資源には限りがあることを考えれば、従来のリニアエコノミーを続けることは持続可能とは言えません。
そこで昨今、持続可能な社会を実現するカギを握っているのが、サーキュラーエコノミー(循環経済)です。
一度作った商品をそのまま廃棄するのではなく、資源として再び活用し、製品や部品、材料を経済の中で循環させる。
そうすることで、エネルギー使用量、大気汚染、水質汚染、温室効果ガスの排出削減につながります。
本来廃棄されるはずだった商品に、新たな市場価値を与えるアップサイクルは、まさにサーキュラーエコノミーの実現に貢献するといえるでしょう。
【関連記事】サーキュラーエコノミーとは?事例と一緒に詳しく解説します
事例
JUNGLE BREWERY(ジャングルブルワリー)
代表の島袋尚美氏が、輸入されたクラフトビールにおけるコストやエネルギー問題に疑問を抱き、
「飲んでいて気持ちの良いビールがつくりたい」
「自分たちが飲む分は、手の届く範囲でどうにかできないか」
という想いから、SDGsの目標12.「つくる責任つかう責任」を軸として、フードロスや地産地消をテーマにし、規格外の野菜や果物を副原料に活用したアップサイクルなクラフトビールづくりを展開している。
2024年6月には佐賀県太良町で100年続くみかん農家「山内柑橘農園」のブラッドオレンジを活用したクラフトビールを販売開始。
アサヒユウアス
【出典】https://www.asahigroup-holdings.com/pressroom/2021/1020_1.html
アサヒグループ傘下のアサヒユウアスとサステナブルファッションブランドのエコアルフとコラボレーションしたプロジェクト「UPCYCLE B」。
サンドイッチ製造で発生し活用しきれない“パン耳”を乾燥加工し、クラフトビールの原料として使用しています。
“パン耳”由来の香ばしい香りと小麦由来のフルーティーな香り、やわらかな口あたりが特徴です。
アディダス
【出典】https://shop.adidas.jp/item/?collection=primeblue
アディダスは海洋環境保護団体のPARLEY FOR THE OCEANS(パーレイ・フォー・ジ・オーシャンズ)と提携して、リサイクル素材シリーズ「PRIMEBLUE」を展開しています。
PRIMEBLUEには、海岸や海沿いの地域で、海に流入する前に回収されたプラスチック廃棄物をアップサイクルして生まれた素材「Parley Ocean Plastic」が採用されています。
海洋プラスチックゴミに特化をしているため、PRIMEBLUEシリーズの商品を買えば買うほど、海からゴミが回収される仕組みになっています。
ハウス食品
【出典】https://housefoods-group.com/socialvalue/crayons.html
スパイス関連の製品を数多く販売しているハウス食品グループ。
スパイス製品を作る過程でどうしても製品に適さないスパイス原料が出てしまいます。
そんな廃棄されるはずだったスパイスをクレヨンにアップサイクルしたのが「彩るスパイス時間 CRAYONS」です。
塗るたびに感じられるスパイスの自然な色や、ほのかな香りが特徴。
首都高速道路
【出典】https://www.shutoko.jp/ss/c-shutoko/blog/2010/11/hataraku-tote.html
首都高の安全対策や工事などをお知らせする役割を担う横断幕。
年間およそ800枚ほどが使用されますが、掲載期間が終了したら廃棄せざるを得ないものでした。
そんな横断幕をトート制作工場に運び、トートとして生まれ変わらせたのが「HATARAKU TOTE」です。
デイリーユースにちょうどよい、軽く、ターポリン製の非常に丈夫な生地。
土木テイストあふれた柄と、風雨にさらされた味わいを持つトートは、全て一点もの。
アーバンリサーチ
【出典】https://www.urban-research.co.jp/news/company/2021/10/commpost-gooddesignaward2021/
異なる素材や品質が混合していて、素材分別が容易ではない衣料品のアップサイクル。
アパレル会社のアーバンリサーチは、素材分別が難しい廃棄繊維を色で分けて付加価値のある素材にリサイクルする研究を行っている「Colour Recycle Network」との協働によって、アップサイクルするブランド「commpost」を展開しています。
従来、傷や汚れで販売できずに廃棄していた衣類をバッグやiPhoneケースなどの商品にアップサイクルしています。
最後に
世界では徐々にアップサイクルの市場が拡大しつつあります。
アメリカの食品廃棄物を使用したサップサイクルフードの市場規模は2019年で467億ドル(5兆1000億円)にものぼります。
そして2029年まで年率5%で成長するとの予測もあります。
ところで、日本でSDGsとかサステナビリティというキーワードは、どうしても「企業のブランディングの一貫」として用いられることが多い印象です。
しかしそういった姿勢では、ビジネスとして確立することも、具体的に社会課題を解決することもできません。
いまこそ日本企業も、今後間違いなく世界の潮流となっていくであろうアップサイクルに本気で取り組むべきではないでしょうか。
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