森林環境税とは?導入の背景や課題について解説

2024年度から日本で徴収が始まる「森林環境税」。

森林の保全と整備を目的として導入されることになります。

ただ、新税の導入にあたっては、世論が荒れるのが世の常であります。

ご多分に漏れず、森林環境税をめぐっても、賛否両論の声が見受けられます。

(賛否というか、目立つのは基本的に批判の声ですけどね。)

森林環境税とは一体どんな税金なのか?なぜ批判の声があがっているのか?

本記事で詳しく解説していきます。

成立の背景

日本の国土の約70%が森林に覆われており、その多くは手入れが行き届いていない状態にあります。

そしてその多くが、人工林です。

人工林が、天然林・原生林と異なるのは「人が管理しなければならない」という点にあります。

天然林・原生林には、多種多様な生き物たちが根付いており、安易に手を加えると、生態系を破壊する原因となります。

一方の人工林は、すでに人間が森林を伐採し、植林をしたため、言ってしまえば守るべき生態系はすでに失われています。

そのため、人工林は適切に伐採・植林をして、紙や木材などの資源として、そして二酸化炭素の吸収源として活用することが求められます。

逆に、人工林を管理せずに放置しておくと、伸び切った樹木のせいで地面に日光が届かず、植生が荒れて土壌が十分に水分を吸収できなくなり、土砂崩れなど災害の原因になったりします。

加えて言うと、パリ協定やSDGsなど地球環境に関する国際的な枠組みとして森林保全が求められている、という外部要因もあったりします。

じゃあ日本の森林は現状どうなっているのかというと、少子高齢化や過疎化の進行により、大部分の森林が適切に管理されていない現状があります。

こうした状況を受け、森林の保全と再生を支援するために新たな財源が必要となり、全国の住民に広く薄く負担を求める形で森林環境税が導入されることになったのです。

森林環境税の概要

森林環境税は地方税として個人住民税に上乗せされる形で徴収されます。

国内に住所のある個人が課税対象で、市町村において、個人住民税均等割と併せて1人年額1,000円が徴収されます。

納税者を約6200万人とすると、税収は1年で620億円に上る計算です。

徴収された税収は「森林環境譲与税」として各自治体に配分され、森林の整備や保全活動に充てられます。

具体的な使途は自治体に委ねられますが、基本的には以下のような活動が対象となります。

  • 森林の間伐や植林:成長が不均一な森林を健康な状態に保つための作業。
  • 森林の管理・保全活動:森林の土壌改良や災害防止のための工事。
  • 人材育成・確保:林業に携わる人材の育成や確保。
  • 森林教育や普及活動:地域住民や子供たちに対する環境教育。

「いやいや、地域によって森林面積も人口も違うじゃないか」

というご意見もあろうかと思いますが、自治体への交付金の分配は一律ではありません。

分配基準は以下の通りです。

交付金の分配割合
私有林や人工林の面積 50%
人口 30%
林業従事者数 20%

メリット

環境保全

森林環境税の導入により、安定的な財源が確保されることで、各自治体が計画的かつ継続的に森林の保全活動を行うことが可能となります。

これにより、二酸化炭素の吸収量が増加することで気候変動対策にもなるし、生物多様性の保全にも寄与します。

とはいっても生物多様性はおまけ程度ですかね。スギの木だけの、単一樹木で構成された人工林に多様な生物は生きられませんから。生物多様性を育むためには針葉樹と広葉樹が混ざりあう多様な樹木が必要となります。

地域活性化

森林整備事業には地域の雇用創出効果が期待されます。

特に過疎地や高齢化が進む地域において、森林保全活動が地域経済の活性化につながる可能性があります。

地元の人々が参加することで、地域コミュニティの再生にも寄与します。

災害防止

森林を適切に管理することで、土砂災害の防止に寄与します。

特に山間部や斜面地における森林整備は、豪雨時の土砂崩れや洪水のリスクを減少させる効果があります。

地産地消

樹木の安定した間伐・植林のサイクルを生み出すことができれば、紙や建築材料など資源を国内で賄うことができます。

日本は戦後、木材の輸入自由化に伴い、安価な外国産の木材が選ばれるようになり、結果的に国産の木材需要は縮小してしまいました。

結果として多くの人工林が生えっぱなしのまま放置されている現状があります。

国産の木材需要が増えれば、地域経済の活性化にもなるし、輸送による環境負荷も低減することにも繋がります。

デメリット

地方自治体間の不公平

各自治体がどの程度の資金をどのように活用するかによって、効果に差が生じる可能性があります。

既に森林整備が進んでいる自治体とそうでない自治体との間で不公平感が生じる懸念があります。

特に森林面積の少ない都市部では、税の恩恵を感じにくい場合があります。

効果の不透明さ

実際に税収がどれほどの効果をもたらすかについては不透明な部分があります。

適切な監視と評価が行われない場合、期待された効果が十分に発揮されない恐れがあります。

負担増加?

デメリットとしてよく

「住民一人あたり年額1,000円の負担が増えるため、特に低所得者層にとっては負担感が強くなる」

という意見も見受けられますが、実はそんなこともありません。

というのも、2014年度から2023年度までは個人住民税として一律で「復興特別税」がすでに上乗せされていたからです。

2024年度からは、復興特別税をそのままスライドする形で森林環境税が課せられるので、個人の負担感はおそらく変わらないはずです。

世論

税負担の増加に対する懸念や、資金の使途に対する不信感も存在します。

実は2024年度からの課税開始に先行して、2019年度から各地域への譲与税の配分をスタートしていました。

交付金は3年間でおよそ840億円にのぼります。

しかし、林野庁が発表した森林環境譲与税の活用状況を見てみると、未活用が47%(395億円)という結果だったのです。

また、自治体間の不公平感や、税金の適切な使用に対する監視体制の強化を求める意見もあります。

批判の声としてよくセットで語られるのが「太陽光パネル」です。

メガソーラーを設置するために大規模な森林伐採が行われた…なんてニュースもよく見かけますよね。

ただ、全体的には批判的な声は少ないような気がしています。あくまで体感ですが。

Yahoo!ニュースやYouTube、各種SNSを見ていても、森林環境税に関する不満の声はあまり多く見受けられません。

レジ袋有料化のときなんかは、もう連日のようにニュースで取り上げられていて、コメント欄なんかも大荒れ状態でした。

こういう政策って、基本的には反対の声が拾い上げられやすいものなんですよ。

商品の口コミなんかも、満足した人はあえてネットに書き込むようなことはせず、怒りのはけ口を求めている人が書き込む傾向にあったりしますから。

そうした口コミの特性を前提としても、やはり批判的な声は少ないように感じます。

個人的な意見

メガソーラーによる森林伐採との矛盾

「メガソーラーを設置するために森林伐採しておきながら新たに税金をとるのは矛盾している」

という意見に関しては、まぁ正直おっしゃる通りだなと思います。

光合成によって大気中の炭素を吸収し、土壌に貯留してくれる樹木も、カーボンニュートラルを実現するうえでは不可欠な存在です。

そんな樹木を伐採しておきながら、新たにエネルギーや資源を消費して製造された太陽光パネルを設置しなおす、なんてことはやめてほしいですね。

自治体ごとの不公平感

また、一部メディアでは「渋谷区には森林がないのに税金をとる意味がわからない」という意見も見受けられました。

ただこれに関しては異論があります。

森林環境税が使われる対象は、何も「森林」だけに向けられているわけではないのです。

林業に携わってくれる「人」に対しても向けられているのです。

皆さんご存知の通り、あらゆる産業で高齢化が進行し、後継者不足が問題になっています。

もちろん林業も例外ではありません。

戦後、全国各地で無計画な森林伐採が行われ、植林をしたものの、活用されないまま輸入木材に頼り、放置されたままの人工林が日本中に広がっています。

一度人間が手を加えた森は、人間が管理し続けなければ、荒廃し続け、災害の原因となるだけです。

そしてこれだけ広大な森林を活用・保全するには、森林保全の教育はもちろん、人材の育成と確保が不可欠です。

「じゃあ日本のどこに次の世代を担う人たちがいるのか?」

と言えば、現実問題として、広大な森林が広がっているような地方よりも、東京のような都市部だったりしますよね。

「森林がないところにリソースを分配する必要がない」と言うことは、すなわち「都市部は森林と無縁の存在でいい」と言っているのに等しいと思っております。

環境問題って、どこか特定の地域だけが解決すべき課題なんでしたっけ?そうではないですよね。

もちろん分配割合については十分議論の余地があろうかと思いますが、森林のあるなしに関わらず、徴収された森林環境税はあらゆる自治体に分配されるべきです。

使い道が決まってないのに徴収するな

世論の見出しでも触れた通り、林野庁が発表した令和3年度における森林環境譲与税の取り組み状況として「47%が未活用」でした。

こうした結果を受けて、「使い道が決まってないのに新しい税金を導入するな」といった声が散見されたりしています。

まぁ実質的には2023年度まで徴収されていた「復興特別税」を、はた目にはほぼそのままスライドする形で導入されるのが森林環境税なので、「導入ありきじゃないか」という声も理解できます。

ただ気候変動という喫緊の課題を背景に成立した税金であることを考えると、ある意味仕方がない部分もあるのかな、と思ったりもします。

2015年にパリ協定が成立し、2020年から脱炭素に向けて各国具体的な政策を実行していくことが求められていましたから。

振り返ってみると、復興特別税に関しても「隅々までガチガチに決めるまで徴収するべきではない」という世論はあまり見受けられなかったように思います。

解決すべき課題の緊急性があったからこそ、コンセンサスが得られたのだと思います。

(まぁこれが地球規模の問題になると賛同が得づらくなるんですけどね)

それに、どれだけ時間をかけようとも、新税の導入って大抵反対されますからね。

むしろ時間をかければかけるほど、議論が煮詰まって導入が難しくなるものです。

時間の猶予がない気候変動対策という背景を鑑みるなら、仕方ない側面もあるのかなと。

結論

一つ間違いないことがあるとするならば、

「今よりも森林保全へのリソースを増やす必要がある」

ということです。

2015年にパリ協定が採択され、日本も気候変動対策のために温室効果ガスを削減する責任を負っています。

そして脱炭素社会を実現するうえでは森林保全は極めて重要です。

一方で、日本では少子高齢化が進行しており、林業の担い手は減り続けています。

確かに一律1000円のような雑な徴収の仕方は問題だなと思いつつ、森林保全に対するお金と人材が足りていない現状も否定できません。

その手段として「税金として徴収する」ことになったわけですが、まぁこういう立法や行政に関しては批判の声があってこそ健全な社会だと思うので、ぜひ今後も議論は進んで欲しいですね。

そしてぜひ税金の使途を明らかにして頂いたうえで、国際社会の一員として責任を果たすべく、森林保全にリソースを割いて欲しいなと思っております。

参考文献

地方税制度|森林環境税及び森林環境譲与税 – 総務省
森林環境税及び森林環境譲与税 – 林野庁 – 農林水産省
令和3年度における森林環境譲与税の取組状況について

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