沖縄本島の北部には国頭村、大宜味村、東村の3村があり、このエリアを「やんばる3村」と呼ぶ。
約75%を森林が占める場所だ。
面積にして日本全体の0.1%ほどしかないエリアだが、日本全体で確認されている生物の種数に対して、鳥類では50%、在来のカエルでは約4分の1が生息。
生物多様性に恵まれ、多くの固有種がいることから、2021年にやんばるは世界自然遺産に登録された。
そして2024年1月、私はそんな日本が誇る生物多様性の宝庫を訪れた。
人と自然の共生
日本では、知床、白神山地、小笠原諸島、屋久島が世界自然遺産に登録されている。
そうした場所と、2021年に登録されたやんばるとの最大の違いは「人と自然の距離」だ。
知床や屋久島などは人が手を加えず原始的な自然がそのまま残されている場所だが、やんばるは昔から地域住民たちが自然資源を活用してきた。
人と自然の距離が近いやんばるは、自然の恵みを享受することで、地域住民たちに「自然を守りたい」という意識が根付いている。
山の神に対するシヌグ、海の神に対するウンジャミといった伝統行事は今も継承され、自然は神聖なものとして崇められてきた。
1970年12月、アメリカ軍がベトナム戦争の訓練のため、やんばるの森に実弾射撃場を建設。
森を破壊する訓練を始めようとしていた矢先、800人近い地元住民が集結した。
そして住民たちの体を張った抗議により、米軍は計画を撤回したという過去もある。
やんばるの森は、畏敬の念を抱く神聖な場所であり、先人が残してくれた大切な資産でもある。
やんばるが抱える問題
しかし近年、やんばるはある問題を抱えている。
- 希少な動植物の密猟
- 自動車によるロードキル
- 外来種の繁殖
- 飼い主に捨てられた犬・猫の野生化
- ゴミの不法投棄
人間たちがもたらした問題により多くの生物が危機に直面している。
例えばヤンバルクイナは、もともと陸上に捕食者がいない環境に適応して進化を遂げたため、飛ぶことができない。
しかし闇夜に迫ってくる自動車や、人間が放ったマングースや犬・猫に遭遇しても、飛んで逃げることができないのだ。
人間たちが生態系に変化を加え続けてきた結果、ヤンバルクイナは絶滅の危機に追いやられてしまった。
やんばるエリアが世界自然遺産に登録されたのは、コロナ渦の2021年だったので、これまでは急激に観光客が押し寄せるようなことにはなっていない。
ただ、コロナ渦が明け、経済活動が再開された今、やんばるにはこれまで以上に観光客が増加することになるだろう。
それはすなわち、やんばるが抱える問題を今以上に悪化させる危険性をはらんでいるということだ。
たとえ世界自然遺産に登録されたとしても、希少な生態系が失われてしまえば、登録がはく奪される可能性もある。
こうした現状に危機感を持った地域住民は、環境省等と協力し2011年から林道パトロールを開始した。
仲間を増やすため、2022年には観光客が林道パトロールを体験できるツアーを誕生させた。
新プロジェクト
このツアー誕生を機に、あるプロジェクトが始動した。
先人が森の恵みを利用しながら保全してきたように、「観光」による利用と保全を確立するプロジェクトだ。
「郷土に誇りを持つ地域の”土の人”と理念に共感した来訪者の”風の人”が共創する新たな保全活動」
というビジョンを掲げ、ツアー参加者の拡大やツアー開発、地域の意識醸成に取り組んでいる。
観光を通じて多くの人にやんばるの自然に触れてもらい、生物多様性に関心を持つ人、自然を守る仲間を増やす狙いがある。
最後に
生物多様性に関心を持つ日本人はまだまだ少ない。
それはきっと、都市化が進み、人と自然の距離が広がり、自然を身近に感じられないことが原因かもしれない。
だからこそ、やんばるの自然に五感で触れる体験には価値がある。
私たちもやんばるの森で多くの生物たちに遭遇し、自分自身も生態系の一部であることを強く実感した。
やんばるの生態系を守るため、ひいては地球の生物多様性を守るため、少しでも多くの人たちにやんばるのツアーに参加してもらいたい。
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